J.S.バッハ演奏家の巨匠として唯一無二の存在とされたタチアナ・ニコラーエワの日本国内録音。確固たる造形力と知性に裏打ちされたバッハの世界がここに蘇る。伊熊よし子氏による新規序文解説と、当時のディレクター野島友雄氏による回想録「ニコラーエワとの16年間」を解説書に収録。アナログ・マスターに遡り世界初SACD化!原音を追求したマスタリングを実施
76cmダイレクトアナログレコーディングを条件にビクター第1スタジオで録音したオリジナル・アナログ・マスターより最新のマスタリングを施しSACD化!タチアナ・ニコラーエワによる初めての日本国内録音。当時のアナログ・マスターテープを発掘、レコーディング・ディレクター野島友雄氏立ち合いのもと、電源、機材から見直した最新のマスタリングでSACD化。同氏による回顧録と、その当時インタビューした経験のある伊熊よし子氏のライナーノーツを収録しました。当時最新の技術で録音された音源が、さらなる豊かなダイナミクスと美しさをもってここに蘇ります。
ニコラーエワは1950年に没後200周年を記念して開催されたライプツィヒ・ヨハン・ゼバスティアン・バッハ国際コンクールで優勝して以降、バッハ演奏の第一人者として世界的な評価を得ました。前述のコンクールで審査員に選ばれたショスタコーヴィチはニコラーエワの演奏に触れて大きな感銘を受け、20世紀のソ連のピアノ音楽を代表する作品と言われる「24の前奏曲とフーガ」を翌1951年に作曲(初演は1952年)、作品をニコラーエワに献呈しています。ニコラーエワはメロディア・レーベルに多くの録音を残し、日本にも多く訪れ、ビクターとバッハの作品を収録しました。当初はメロディアとの共同制作として、後にビクターの原盤として録音された作品の収録は1977年に始まり、1982年から間を挟んで1991年までにアルバム5作(平均律を1作としてカウント)が遺されました。収録場所は1977年の最初の録音以降は、当時ニコラーエワ自身が好んで滞在した場所から近い、現日光市・今市文化会館でセッション収録が行われています。その後ビクターは1993年に大阪でフェドセーエフが指揮する「チャイコフスキー・ラスト・コンサート」において、ニコラーエワをソリストとしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番をライヴで収録(2022年に当企画のSACDハイブリッド盤としてNCS88013で発売中)。ニコラーエワは翌年に亡くなりましたのでこの盤がビクターとの最後の録音になりました。
今回の復刻は、昨年2024年のニコラーエワ生誕100年記念企画として立案されたものです。ビクターへの録音は1977年収録の「インヴェンションとシンフォニア」のみアナログ録音として、それ以降はデジタル録音で収録されました。ニコラーエワがビクターに残した全バッハ音源を5タイトルに分けて発売いたします。復刻に関しては、アナログ録音に関してはビクター所蔵のオリジナル・アナログ・マスターテープから、デジタル録音はマスターに遡ってあらためてマスタリングを行ました。原音を追及し、現況での最上位での音質を目指しています。尚、SACD化の過程は各従来企画と同様です。
(1/2)
タワーレコード(2025/07/25)
一連の日本でのビクターへのバッハ音源は、このアルバムのみアナログ録音時代の1977年にビクター第一スタジオで収録されました。既に前後してメロディアへ多数のバッハ録音を行っていましたが、ビクターとの最初の録音にこの曲を選択した理由は、制作陣含め聴きやすさや曲の知名度の高さも日本市場において意識したのかも知れません。演奏においては他のバッハ録音と同様、自然体でありながらも示唆に富んだ表現はこのアルバムでも顕著で、その豊かな音楽性には驚かされます。また的確な再現により曲の形式も理解しやすくなっており、幅広いリスナー層に対応した随一の演奏と言えるでしょう。
今回の復刻では、当時の雰囲気を存分に伝える優秀録音をビクター所蔵のオリジナル・アナログ・マスターテープから最新で復刻を行いました。いずれも貴重な音源です。ビクターが温度管理も含め厳重に保管していたオリジナルの2chのアナログ・マスターテープを用い、録音当時も使用していたスチューダーのA-80で再生した音源をSACD層用にはDSDでダイレクトに、CD層用には同じくDSD化された音源を基に出来るだけ工程ロスを減らしたピュアな方法で44.1kMzに変換しています。製品化にあたってはスタジオでマスター・テープと比較の上、DSD2.8MHz、DSD5.6MHz、DSD11.2MHz、PCMは44.1kHzから192や384等、可能な限りのレートで試聴を行った上で、DSD2.8MHzのダイレクトを採用しました。これは、SACDのフォーマットが2.8MHzのため工程で一番ロスが少ないこと(他のレートでは最終的に2.8MHzに変換するため工程が多くなる)で、楽器の質感や音色が一番アナログ・マスターテープに近かったことによります。もちろん、音楽性を重視した最小限のマスタリングに留めています。そのため、本来のアナログ・マスターテープに極めて近似した音を再現できました。尚、CD層はDSD化音源を使用し調整しています(今回、全工程は広義な意味も含め「マスタリング」という言葉を使用しています)。当時のビクターによる録音技術の粋を集めた素晴らしい音源が、今回の復刻ではまさに蔵出し的な意味合いも十分感じられる出来に仕上がっていますので、現在の技術を用いたこの素晴らしい録音を最大限お楽しみいただけます。
尚、解説書には貴重な初出時の各解説と、新規で伊熊よし子氏による序文解説、そして当時担当ディレクターであった野島友雄氏による新規文章を掲載しました。また、ジャケットにはLP初出時のオリジナル・ジャケット・デザインを採用しています。今回、ニコラーエワの企画は全5作を発売いたします。
(2/2)
タワーレコード(2025/07/25)