物量が全てを凌駕する。そう言わんばかりの32曲、2時間10分の曽我部恵一のニューアルバム『パイナップル・ロック』。サイケ、フォーク、ガレージ、ソウル、ネオアコ、ファンク、レゲエ…、彼が渡り歩いて来た幾多のジャンルを俯瞰するかのようなこの圧倒的で冷徹な音楽地図も、ひとたびその扉を開き足を踏み入れれば、そこには曽我部がかねてから提唱してきた「日々の歌」があるがままに並べられているということに気が付くだろう。日記を書くように歌を作り歌っていきたい。そのように語り実践してきた曽我部恵一の変わらぬ姿勢が、ここにもまた確かに存在する。ひと筆書きのような小品から、ストリングスやホーンセクションを配したゴージャスな手触りのものまで、あらゆる質感の音楽がとり揃えられ、そしてそれらは曽我部恵一の無限の歌唱によってまとめられた。しかし集積された私的な歌たちが織りなす光と影は、私たちの過去や未来、さらにはどこか遠い世界の小さな想いにも繋がっている。そんなことを想像しながら、もう一度『パイナップル・ロック』の世界へ入って行く。 (C)RS
JMD(2025/06/26)
「エスカレーターを昇った場所」
物量が全てを凌駕する。
そう言わんばかりの32曲、2時間10分の曽我部恵一のニューアルバム『パイナップル・ロック』。
サイケ、フォーク、ガレージ、ソウル、ネオアコ、ファンク、レゲエ…、彼が渡り歩いて来た幾多のジャンルを俯瞰するかのようなこの圧倒的で冷徹な音楽地図も、ひとたびその扉を開き足を踏み入れれば、そこには曽我部がかねてから提唱してきた「日々の歌」があるがままに並べられているということに気が付くだろう。
日記を書くように歌を作り歌っていきたい。そのように語り実践してきた曽我部恵一の変わらぬ姿勢が、ここにもまた確かに存在する。
ひと筆書きのような小品から、ストリングスやホーンセクションを配したゴージャスな手触りのものまで、あらゆる質感の音楽がとり揃えられ、そしてそれらは曽我部恵一の無限の歌唱によってまとめられた。
しかし集積された私的な歌たちが織りなす光と影は、私たちの過去や未来、さらにはどこか遠い世界の小さな想いにも繋がっている。
そんなことを想像しながら、もう一度『パイナップル・ロック』の世界へ入って行く。
参加した36人のミュージシャンは皆、盟友と呼べるような気のおけない仲間たち。彼らも絢爛とした宇宙を自在に彩った。
写真家・佐内正史はアルバムを何度も聴いた上で自らのこの写真をカバーに選定した。
「このエスカレーターを昇った先で『パイナップル・ロック』の演奏会がありそう」、彼は言った。
エスカレーターを昇った場所。そこで曽我部恵一は今夜も歌っていることだろう。漏れ聴こえる音が世界の片隅に広がって行くことを願いながら。
発売・販売元 提供資料(2025/06/20)
ソロ名義とサニーデイ・サービスで新作を立て続けに配信するなど、創作ペースがさらに加速するなか、そのソロ作が全32曲入りの2枚組でパッケージ化。自身による多重録音をベースに、数多の音楽仲間と共に披露するのはメロウなソウルにエレクトロ・ポップ、弦楽四重奏とのフォーキーなミディアム、まどろむようなギター・インスト、サニーデイでのライヴ音源など。その音楽的な広がりは〈集大成〉という表現でも追いつかないが、日々の感情や感傷を率直に表す姿勢が一貫しているから、プレイリスト的ではないトータル・アルバムとしての強度がある。人生を音楽でなぞらえたような渾身の一作だ。
bounce (C)鬼頭隆生
タワーレコード(vol.501(2025年8月25日発行号)掲載)