イタリア映画界の反逆児、ピエロ・パオロ・パゾリーニ監督とオペラ界のスキャンダラスな歌姫、マリア・カラス。そんな強烈な個性が顔をあわせた『王女メディア』は、生け贄の儀式から始まる。パゾリーニは取り憑かれたように何度も儀式のシーンを撮影したらしいが、この映画の制作自体が、パゾリーニが探し求めた〈神〉に捧げる儀式だったのかもしれない。魔法が息づく故郷を離れ、愛する王子と新世界に逃亡するメディア。やがて彼女は近代的な都市で孤立して、王子に憎しみを抱くようになる。当時、カラスは海運王オナシスに棄てられたばかりだったが、その恨みや悲しみもまた映画に捧げられた。そして、アフリカや中近東で行われたロケや、日本の長唄やブルガリア民謡など多彩なワールド・ミュージックが魔術的な空間を生み出すなか、残酷なまでに美しいパゾリーニ的神話世界が活き活きと立ち上がる。まさに〈幻視者〉パゾリーニの真骨頂と言える傑作だ。
intoxicate (C)村尾泰郎