歌手のレイラ・ピニェイロ(Leila Pinheiro)とマルチプレーヤーのヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)がタッグを組んで制作したアルバム「ドナート」(Donato)。同アルバムには、ブラジルの作曲家・ミュージシャン・アレンジャーで、生きていれば今年の8月17日で90歳の誕生日を迎えるはずだったジョアン・ドナートの楽曲が新たな解釈で収録されている。
ドナートの楽曲に没頭する作業にレイラを誘ったのはヒカルド・バセラールの方だった。アルバム全編でピアノの音響を担当したバセラールは、「ドナートの作品に新たな視点をもたらすようなアルバムを作りたかった。レイラはジャスミン・スタジオのあるフォルタレーザまで来てくれ、レコーディング初日に早速二人で「ルガール・コムン(Lugar Comum)」「ア・ハン(A Ra)」の2曲を吹き込んだ。ミュージシャンでもある彼女と一緒にハーモニーを紡ぎながら、演奏・録音していく作業は全てが自然な流れで進行した。レイラは歌手としてもピアニストとしても、正確かつ要求の厳しいアーティストであり、我々二人のコミュニケーションは円滑だった」と話す。
「ヒカルドのスタジオはこれまで私がレコーディングに使ったことのあるスタジオの中でも屈指の素晴らしい施設で、ジャスミン・レコードというレーベルの存在も知っていたが、随分変わったオファーだなというのが正直な印象だった。ドナート作品はそれまでに何曲もレコーディングしており、ステージでの共演も多く、ドナートは1983年リリースの私のファーストアルバムに参加、私も彼のDVD「ドナトゥラル(Donatural)」に参加するなど、私にとって偉大な存在であるドナートに捧げるアルバムをこの時期に作ろうという選択肢は自分にはなかった」とレイラは話す。「ヒカルドからオファーを受けた時には、ドナートの生誕90年に合わせた発表のタイミングが絶妙に思え、また自分にとっては大きな挑戦になると感じた。」これまでに素晴らしいレコーディングやアレンジがされている曲に新たなアプローチを探すことは、ある意味では曲家のオリジナルのコンセプトを解体するような作業で、「ヒカルドのことを、そして彼が提案するものや、我々二人の出会いから生まれてくるものを全面的に信頼して、体当たりで取り組むことにした」という。
ピアノとヴォーカルによるアルバムのレコーディングに、ジャキス・モレレンバウムが加わって新たな輪郭が生まれた。モレレンバウムについてヒカルドは、「彼とは以前アルバム『アンダール・コン・ジル(Andar com Gil)』のレコーディングで共演したこともあって参加を依頼した。今回のアルバムへのジャキスの貢献は大きく、曲のアレンジは我々三人が協力して作り上げたと言っても過言ではない」という。レイラも「我々はトリオとして一緒にジョアン・ドナートと共作者たちの作品を深く読み込んだ」と語っている。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2024/10/29)
アルバムに収録されたドナートの作品12曲は、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ホナウド・バストス、アベル・シルヴァ、シコ・ブアルケ、マルロン・セッチ、シルヴィオ・フラーガ、リジアス・エニオとの共作。この中で唯一の未発表曲である「コンタス・ジ・ヴィードロ(Contas de Vidro)」は、作曲者ドナートの生前にイヴォーネ・ベレンを通じてレイラ・ピニェイロの手に渡った。「この曲はドナートとジョアン・ジルベルト、リジアス・エニオとの共作で、これまでインストゥルメンタルバージョンしか録音されていなかった。ドナートがイヴォーとの電話中に『これを送ったら、レイラは大喜びするな』と言っている声が聞こえたが、まさにその通りになった。この曲と『ヴェルボス・ド・アモール(Verbos do Amor)』では私がピアノを演奏した」とレイラは話す。ヒカルド・バセラールは、この曲と名曲「 ナトゥラルメンチ (Naturalmente)」でレイラとヴォーカルを共にしている。
予定されていたドナートの特別参加も実現しなかった。「リオに行って一曲ドナートにも参加してもらう計画だったが、残念なことにレコーディングの前に亡くなってしまった」という。
ジャキス・モレレンバウムは、「ア・ハン(A Ra)」、「アサフラオン(Acafrao)」、「ナケラ・エスタサオン(Naquela Estacao)」、「 ナトゥラルメンチ (Naturalmente)」「コンタス・ジ・ヴィードロ(Contas de Vidro)」、「ジャ・キ・ヴォセ・デウ・モチーヴォ(Ja Que Voce Deu Motivo)」、「ヌア・イデイア(Nua Ideia)」「フロール・ジ・マラクジャー(Flor de Maracuja)」「ブリーザ・ド・マール~スルプレーザのメドレー(Brisa do Mar"/"Surpresa)」の9曲でチェロを披露している。
今回のアルバムの前にも、レイラとバセラールはジャスミン・ミュージックからリリースされた2作品で共演している。2023年には、レイラはボサノヴァ界の重鎮ロベルト・メネスカルの誘いを受け、メネスカル本人とヒカルド・バセラール、ヂオゴ・モンゾの合作アルバム「ノス・イ・オ・マール(Nos e o Mar)」に収録された「バイ・バイ・ブラジル(Bye Bye Brasil)」(作詞・作曲ロベルトメネスカル、シコ・ブアルケ)のレコーディングに参加した。さらに同年の年末には、二人で「セメンチ・ジ・マレ(Semente da Mare)」(作詞作曲ギリェールメ・アランチス)をシングルとしてリリースしている。
アルバム「ドナート」のサウンドは、レイラ・ピニェイロとヒカルド・バセラールが入念にこの作品を作り上げたことを反映している。「ドナート作品の扱われ方については、最新の注意を払った。彼の楽曲ような偉大な作品に新たな解釈を加えようとする場合、大きな敬意や厳密さが求められる」。レイラの考えでは、このアルバムには若い世代のピアニストや歌手、アレンジャーにドナート作品を紹介するという役割もある。「聴いた人が驚くような独自の視点を与えることができるのはとても興味深い経験だった。このアルバムは言うなれば誰も見たことのないジョアン・ドナートの肖像写真だと言える」。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2024/10/29)