サックス奏者イマニュエル・ウィルキンス、2年振りのニュー・アルバム。
本作は、ウィルキンスとミシェル・ンデゲオチェロの共同プロデュースで制作。「母親にキッチンへ連れられて、レシピを教えられているような、そんな一場面を聴いているようなアルバム」と本人が語るこのアルバムのタイトルは、1964年に無実の罪で逮捕され、刑務官から度重なる暴行を受けたにもかかわらず「血が出ていない」という理由で治療を受けられなかった少年、ダニエル・ハムの「あざを切開して血を流して、そのあざ(ブルース)の傷を見せなければならなかった」(I had to, like, open the bruise up and let some of the blues [bruise] blood come out to show them)という発言からきているもの。スティーヴ・ライヒが「Come Out」で本人の音声を使用したことでも有名なこのフレーズの、あざ(bruise)をブルース(blues)と発音している部分から着想を得て、「プランテーション時代まで遡ると、黒人にとって痛みの中の喜びの象徴だった」という「ブルース」と、「先祖や世代の象徴だ」という「血」を描いた、自身最大の野心作となっている。
マイカ・トーマス(p)、リック・ロサート(b)、クウェク・サンブリー(ds)といったレギュラー・カルテットを中心に、アルバムは終始静かに流れるように進んでいくが、その中にも深い悲しみや激しい感情が感じ取れる仕上がりとなっている。自身の作品で初めてヴォーカルをフィーチャーしている点も興味深い。グラミー賞3度受賞の若き歌姫セシル・マクロリン・サルヴァント、シャバカ・ハッチングスやフローティング・ポインツが参加した新作が話題のガナヴィヤ、幻想的な歌声が印象的なニューヨーク在住のシンガー・ソングライター、ジューン・マクドゥームなどがヴォーカリストとして参加している。
芸術家のシアスター・ゲイツが率いるグループ、シアスター・ゲイツ&ザ・ブラック・モンクスに影響を受けたというウィルキンスは、「シアスターとはとても親しくなり、参考となる多くの録音を聴かせてもらった。声は空気を振動させる楽器であり、命を吹き込むものであるという点でサックスに非常に近い。この作品ではコミュニティのように感じられる音楽を書きたかった」と語っている。また、アブストラクトなインタールードやポスト・プロダクション要素もふんだんに採り入れられており、アルバムを通してコンセプチュアルで新しいサウンドが繰り広げられている。
ステージ上で演奏される際は同時に伝統的なレシピが調理され、ナイフで食材を切る音やお湯を沸かす音などをマイクで拾ってサウンドに同化させるという極めてユニークなアイデアに満ちた『ブルース・ブラッド』の音楽について、ウィルキンスは「言葉で表現するのは難しいけど、この音楽には錬金術的な力があるということだけは分かっている。とてもパワフルだ。この音楽をちゃんと届けて、人々に何かをもたらせるようにするのが使命だと思っている」とコメントしている。
【パーソネル】 Immanuel Wilkins(sax) Micah Thomas(p) Rick Rosato(b) Kweku Sumbryon(ds) Ganavya(vo) June McDoom(vo) Yaw Agyeman(vo) special guest: Cecile McLorin Salvant(vo) Marvin Sewell(g) Chris Dave(ds)
発売・販売元 提供資料(2024/08/29)
イマニュエル・ウィルキンスの『ブルース・ブラッド』では、アフリカン・ルーツとアメリカン・ドリームが交錯し、そこに代々流されてきた無惨な血と吐け口を求める鬱勃たる若い蒼い血が交流する。
大衆が音楽を創るのではなく、むしろ音楽(と言葉)が大衆を創り導くのだ、という極めて重大な秘密をもこの作品は教えてくれる。
先祖の地を遠く離れ、先祖が愛用した楽器を何一つ持たず、サックスというハイカラな新しい楽器を頼りにして、己のブルースを流れる血が根源の心臓まで帰り、そしてまた根源の心臓から新時代に送り出される。