ベイエリアをベースとするチャズ・ベアーによるプロジェクト、トロ・イ・モワの新作が完成。ラップ・ロック、サウンドクラウド・ラップ、Y2Kエモに真っ向から挑んだ予想外で大胆な8枚目のアルバム『ホール・アース』、リリース。
Toro y Moiとして8枚目となるChaz Bearのフルレングス・スタジオ・アルバム『Hole Erth』は、Bearがラップ・ロック、サウンドクラウド・ラップ、そしてY2Kエモに真っ向から挑んだ、ジャンル・シェイプシフターとしてこれまでで最も予想外かつ大胆な作品だ。このアルバムは、アンセミックなポップ・パンクと、オートチューンでメランコリックなラップという、かつてないほど互いに影響し合う2つのジャンルを融合させ、Toro y Moiのアルバム史上最多のフィーチャリングを盛り込んでいる。
アンチ・ラブソング「Madonna」ではDon Toliverがムーディーに歌い上げる。「Heaven」ではKevin AbstractとLevが息の合ったリフレクションを披露している。ミレニアル・インディの鼓動でエモ・キング、Benjamin Gibbardも参加する。2023年末から2024年初頭にかけての数ヶ月の間にレコーディングされた『Hole Erth』の特徴は、Bearが長年の友人に連絡を取るだけで、その短い期間に自然に出来上がっていった。『Hole Erth』の各パーツの総和は巨大で、特にヒップホップにおけるBearのプロデューサーとしての巧みな能力を示している。彼のカルチャーにおける役割は、ラップ界最大の先駆者たちとの過去のコラボレーションによって、長い間確固たるものとなっている。Bearにとっては大胆な方向転換となったが、難しいものではなかった。結果、Bearは、Toro y Moiの作品に新たなサウンドの地平を切り開くと同時に、このプロジェクトのエレクトロニックな始まりを受け入れている。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2024/06/26)
『Hole Erth』は真新しいが、どこか完璧に馴染んでいるのだ。アルバムのタイトルは、Stewart Brandが60年代後半から70年代前半にかけて発行していたDIYの定期刊行物『Whole Earth』へのオマージュである。大工道具の製品レビューから、自分で食料を栽培するためのガイド、シリコンバレーのスタートアップ・カルチャーにインスピレーションを与えることになる技術楽観主義的な分析まで、その類似点は『Hole Erth』の至るところに見られる。『Hole Erth』を構成するサウンドは、Bearにとって新たな領域のように感じられるかもしれないが、実際は、エレクトロニック・ミュージックを常に軌道に乗せてきたプロジェクト、Toro y Moiの原点回帰である。
「Toro y Moiはロックバンドではない。僕にとって、フォークのレコードやサイケ・ロックのレコードはサイドクエストなんだ。僕がToro y Moiのプロジェクトに惚れ込んだのは、エレクトロニック・プロダクション、つまりサンプルだった」とBearは断言する。『Hole Erth』の核心には、遊び心に満ちた野心と実験性がある。Bearにはエネルギーがあるが、そのエネルギーが永遠ではないことを痛感している。インターネットがますます急速なペースで複数のジャンルをひとつに融合させている今、Bearは現代のオルタナティヴ・リスナーについていくという稀有な偉業を成し遂げている。常に変化し、進化し、実験し続けることがToro y Moiの核心であり、『Hole Erth』では、Bearは新しい世界をぶつけ合いながら、彼を形成した無数のサウンドと時代を受け入れ、挑戦しながらも自分自身を取り戻しているのだ。 (2/2)
発売・販売元 提供資料(2024/06/26)
トロ・イ・モワ史上もっとも客演が多くなった8作目。ドン・トリヴァーを迎えた物憂いヒップホップ"Madonna"やシューゲイザー的ギターとトラップ・ビートを組み合わせた"Reseda"、またエモやポップ・パンクなども迂回するなど、さまざまに想定外のルートを進んでいく。が、スタイルの進化と先鋭化が同一線上で行われ、従来よりも跳躍高のある作品になっているのが見事。
bounce (C)桑原シロー
タワーレコード(vol.490(2024年9月25日発行号)掲載)