新作を撮るごとに世界中から熱い注目を集める巨匠イ・チャンドン
その異色のキャリア、創作活動の原点となった生い立ちや家族との関係などパーソナルな面まで明らかにされる長編ドキュメンタリー

★イ・チャンドンの登場は、韓国のみならず、世界の映画史を塗り替えたと言っても過言ではない。現代社会が目を背けがちなタブーに近い題材にも果敢に切り込み、それでいて決して冷静さを失わず抑制された語り口を守りきる。登場人物を苛酷なシチュエーションに追い込む厳しさとともに、とことん弱者に寄り添い真摯な眼差しを投げかける姿勢もまた、観る者の胸を打つ。その唯一無二の作風が、国内外の幅広い層の観客、そして世界各国のクリエイターたちに与えた影響は計り知れない。

★海外での高い評価は、イ・チャンドンの国際的名声を高めるだけでなく、韓国映画の世界的躍進にも大きく貢献した。長編第3作『オアシス』は、第59回ヴェネチア国際映画祭で監督賞と新人俳優賞(ムン・ソリ)を受賞。第4作『シークレット・サンシャイン』は、主演のチョン・ドヨンに第60回カンヌ国際映画祭女優賞をもたらした。第5作『ポエトリー アグネスの詩』では、第63回カンヌ国際映画祭の脚本賞を獲得。現時点(2024年)での最新長編『バーニング 劇場版』は、第71回カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞を受賞した。寡作ながら、新作を撮るごとに世界中から熱い注目を集める、紛うことなき「巨匠」のひとりである。

★イ・チャンドン作品に魅了されたフランスのドキュメンタリー監督、アラン・マザールは、その愛を見応えある長編ドキュメンタリー『イ・チャンドン:アイロニーの芸術』に結実させた。コロナ禍のさなかにリモート形式で撮影された同作は、イ・チャンドンと彼の制作会社パインハウス・フィルムが全面協力。代表作『ペパーミント・キャンディー』に倣って時間を逆行するスタイルをとり、小説家から映画監督に転身した異色のキャリア、さらに創作活動の原点となった生い立ちや家族との関係など、パーソナルな面まで明らかにされる。