ローリング・ピアノマンの異名通りのゴキゲンに転がるピアノとハートフルな歌声によるパフォーマンスと嘘のない言葉とその言葉と分かち難いメロディを紡ぐソングライティングでリスペクトを集めるリクオの2024年作。
チェロとピアノ弾き語りのよる(12)「こぼれ落ちてゆくもの」以外はすべてHOBO HOUSE BANDとの録音。バンドサウンドでのアルバムとしては『グラデーション・ワールド』(2019)以来5年振り。ルーツミュージックを消化した手練れ達による懐が深いバッキングも聴きどころで特にツインヴォーカル的にリクオのヴォーカルと絶妙に混ざり合う真城めぐみのコーラス、時にストリングス、時にオルガン的に音空間を彩る宮下広輔のペダルスティールはリクオの楽曲の世界観をグッと広げている。また(7)「流れ星」には、同じ京都人でもあり彼女のアマチュア時代から交流のある中村佳穂が共作・ヴォーカルで参加。ここではリクオが脇に回り自由度の高い中村のソウルフルな節回しが前面に出て中村佳穂ファンも必聴の出来栄えに。バンド録音での前作にあたる『グラデーション・ワールド』(2019)がコロナ禍前のアルバムであるのに対し今作は2019年末からのパンデミックを経た影響が色濃い。リクオはパンデミックで変わってしまったコミュニティ～社会～世界の中で途切れてしまいそうな人と人の関係性を＜音楽＞で繋いでいこうとしているかのようだ。
アルバムにはこんなリリックが登場する
♪僕らをつなぐ このゆるやかなグルーヴ/君は君のままで 奏でりゃいいー(8)「アンサンブル」
♪音楽を止めないで/何も失くしてないさ 思い出せEvery body It's all right-(10)「僕らのライブハウス」
♪失った夜を 失くした自由を 取り戻すのさ/この場所で-(9)「ミュージック・アワー」
リクオは繰り返し音楽や歌をモチーフに人との繋がりを歌い、音楽を共有する場・時間の価値を思い出させてくれる。
そして、歌うことを継承していく意思表明も。アルバム冒頭を飾る(1)「リアル」の歌い出しはこうだ。
♪空を切り裂いて 君がやってきて しっかりしろよ と僕に言う
のっけの「空の切り裂いて 君がやってきて」はRCサクセションの名曲「ヒッピーに捧ぐ」から引用である。
その曲(1)「リアル」はこう続く
♪君が見た夢 今ならわかる/絵空事じゃない 大切なこと
♪君の歌の意味 今ならわかる/綺麗事じゃない 大切なこと
リスナーの想像を奪う安易な決めつけは避けるべきだが、リクオのキャリア初期のシングル「胸が痛いよ」(1992)を共作するなど活動を共にした忌野清志郎、その人を想起させる。かように、ミュージシャン/ソングライターとして確かな表現力でピュアな衝動を誠実にソングライティングに反映させる"人間リクオ"が透けて見えるアルバムである。
中村佳穂との共作曲(7)「流れ星」の一節にこうある。
♪Life goes on all right
アルバムを構成する12曲は、良質な映画や小説がそうであるように、作中で描かれる登場人物のLifeに触れることでリスナー自身のLifeを見つめ直すそんな機会になるはずだ。是非聴いていただきたい一枚

タワーレコード （2024/06/14）

ローリングピアノマン リクオパンデミックを経て、混沌の世界で放つニューアルバム。

この奇妙な世界で生きてゆく12編

「途切れちゃいなかったすべては繋がっていた」ローリング・ピアノマン・リクオ、パンデミックを経て、混沌の世界で放つニューアルバム。

リクオとライブ活動を共にしてきたHOBO HOUSE BANDの面々が全面参加。アルバムタイトルナンバー「リアル」、パンデミックの最中に生まれたラブ・ソング「ハグ & キス」、中村佳穂との共作「流れ星」(コーラスで中村佳穂がRec.参加)等収録。

発売・販売元 提供資料 （2024/04/11）