イゴール・レヴィットが新たに録音した、メンデルスゾーンの14曲の「無言歌」とアルカンの「海辺の狂女の歌」
2023年10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、突如イスラエルへの攻撃を開始。イスラエル側も激しい空爆で応酬し、双方の死者は1週間あまりで4000人を超えました。こうしたイスラエル系ユダヤ人への攻撃と現在の世界的な反ユダヤ主義の高まりを目の当たりにしたイゴール・レヴィットが録音したのが、メンデルスゾーンの14曲の「無言歌」とアルカンの「海辺の狂女の歌」です。
レヴィットはアルバム制作の経緯をこう説明しています―――「私がこれらの作品を録音したのは、非常に強い自分の内的欲求からでした。10月7日の襲撃後、言葉を失い、完全に麻痺した状態で過ごしました数週間の後、私にはこのことにピアニストとして反応する以外の手段がないことに思い至ったのです。私にはピアノがある、自分の音楽があります。「無言歌」を録音し、その収益を、私の故郷であるここベルリンで反ユダヤ主義を経験している人々を支援するために活動している2つの素晴らしい団体に寄付することにしたのです。これは、ここ数週間、数か月の間に私が感じたことに対する、一人の人間としての、音楽家としての、そしてユダヤ人としての私の率直な反応なのです。より正確には、頭に浮かんだ多くの反応のうちの1つというべきかもしれません。これらの楽曲が持つメランコリー、メロディ、トーン、ピュアな美しさ、喜びと悲しみ、それらのすべてことが私を癒やしてくれたのです」。
これまでベートーヴェンやバッハ演奏で高い評価を得てきたレヴィット。彼の丁寧かつ端正な表現は「正攻法」と喩えられることも多いのですが、このメンデルスゾーンでも彼の演奏は過度にロマンティシズムに耽溺することなく、作品の持つ本来の旋律美を浮かび上がらせ、柔らかい分散和音に彩られた曲の奥深くに隠されたメンデルスゾーンの苦悩や心象風景を描き出しています。
最後に置かれたアルカンの「海辺の狂女の歌」も強烈な印象を残す作品で、最低音部で音を詰めた和音のおよそ音程感のない響きの怪しさはまさに題名通りのただならぬ情景を彷彿とさせ、高音部のか細い旋律の音色も身震いが出そうな恐怖を感じさせてくれます。現在の世界で起きている悲しい状況が奏でられているようで、レヴィットは「この曲はセッションが終了する3時間前に急遽録音することにしたのです。これもまた無言歌のひとつであり、信じられないほど強烈で、暗く、もの悲しい。それゆえに、このアルバムの最後を飾るのにふさわしい曲と思ったのです」と語っています。このアルバムの収益は反ユダヤ主義と闘うドイツの2つの団体、OFEK - 反ユダヤ主義暴力と差別に関するアドバイス センターおよび反ユダヤ主義に対するクロイツベルク・イニシアティブに寄付されます。印象的なジャケットカバーは、写真家マルクス・ヒューレックによって撮影されたもので、数年前にイゴール・レヴィットに贈られたネックレスとダビデの星です。
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2024/02/09)
One might not expect an album of Mendelssohns Lieder ohne Worte ("Songs Without Words") from pianist Igor Levit, whose offerings generally run to Beethoven or to ambitious concept albums. However, a look at the graphics and its striking Star of David pendant indicates what is happening. Levit intends the album as a memorial for the October 7th attacks in Israel, after which he had struggled for some weeks. Says Levit: "I made this recording out of a very, very strong inner necessity. I spent the first four or five weeks after the attack on October 7th in a mixture of speechlessness and total paralysis. And at some point, it became clear that I had no other tools than to react as an artist. I have the piano. I have my music." Proceeds from the album will be donated to German organizations combating anti-Semitism. As for the music itself, Levit strikes a tone of remarkable gravity. Mendelssohn isnt usually his thing, and he says he chose the Lieder ohne Worte for a melancholy he found in them. He doesnt mention Mendelssohns Jewish background, but it fits into his effort. The album ends with a Prelude by another Jewish composer, Charles-Valentin Alkan, that has quite a haunting effect. The Mendelssohn pieces are carefully controlled and sober. Even apart from the tragic circumstances that gave birth to it, this album is something of a landmark in the performance of Mendelssohns piano music. ~ James Manheim
Rovi