【シゲティが録音を願いつつ果たせなかったヴォーン・ウィリアムズのソナタを含む注目のライヴ盤が登場!】
ヨーゼフ・シゲティが1955年に米国シアトルで行ったコンサートのライヴ録音をオリジナル・テープから初復刻しました。注目はヴォーン・ウィリアムズのヴァイオリン・ソナタ。この曲は1954年に作曲され、同年10月12日に作曲者82歳の誕生日を記念するBBCの番組内で初演されましたが、O.W. Neighbour著『Vaughan Williams and His World (ヴォーン・ウィリアムズとその世界)』によれば、コンサートでとりあげたのはシゲティが初めてで、彼は1955年に「楽譜が出版される前にレコードを出したい。実に素晴らしいソナタなので、出版されれば皆が競うように演奏・録音するだろう」と知人宛ての手紙に記したそうです。古典作品の素晴らしい解釈者であると共に、すぐれた同時代音楽の擁護者でもあったシゲティらしいコメントと言えるでしょう。
シゲティはコンサートのプログラムが定番名曲に偏ること、聴衆が知っている曲しか聴かなくなる傾向を憂慮しており、1950年代半ばには「20世紀の傑作11曲」という3日分のシリーズ・コンサートを各地で行っていました。とりあげられた作曲家はバルトーク、ブロッホ、ブゾーニ、ドビュッシー、ヒンデミット、オネゲル、アイヴズ、プロコフィエフ、ラヴェル、ウェーベルン、ヴォーン・ウィリアムズ。彼はこのうち10人の作品を録音しましたが、ヴォーン・ウィリアムズだけは遂に録音を出すことが出来ませんでした。後年、出版社を介してヴォーン・ウィリアムズの未亡人ウルズラに宛てた手紙では「1959年頃にアメリカ各地の大学で随分演奏したが、そのテープを探し当てることが出来なかった」「こんにちの若いスター演奏家たちがこの傑作にして難曲をとりあげないのは残念だ」と書いており(前掲書より)、同曲に対する強い思いが感じられます。シゲティが同曲をコンサートで初演したのは1955年とされており、この演奏は収録日不詳ながら初演から日が浅いと見られ、楽譜も未出版(翌1956年に出版された)で、作品の知名度はいまだ低かったはず。作品の評価を一身に担おうとするシゲティの気迫が感じられる演奏で、同曲の演奏史において極めて重要な録音と言えるでしょう。シゲティのディスコグラフィにおいても貴重な追加となります。
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ナクソス・ジャパン
発売・販売元 提供資料(2023/12/21)
シゲティはバッハの無伴奏ヴァイオリン曲の全集を1955年から56年にかけて録音しており、ここでのパルティータ第3番も練り上げられた演奏。こんにちのバロック舞曲的軽やかさとは異なり、力強い楷書体の字を思わせる演奏です。シゲティの師フバイはブラームスのピアノで彼のヴァイオリン・ソナタ第3番を初演しており、この演奏は初演者、そして作曲者直伝のものということができるでしょう。独特の節回しとロマンティックな呼吸の感じられる興味深いものです。
レーベル情報によればオリジナル・テープの提供を受けてのCD化で、いずれも初発売とのことですが、バッハとブラームスは1992年にSeven Seasレーベルから発売されたものと同演奏の可能性があります。ヴォーン・ウィリアムズは完全初出。音質はバッハとブラームスはヴァイオリンがかなり生々しい音で録られており、解像度が高いと同時に会場の響きも聴き取れます。ヴォーン・ウィリアムズはピアノの音色が明らかに異なり、全体的にやや重くくすんだ音色となっていますが、強奏でもギラつくことがなく、演奏を味わう上で十分な音質となっています。
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