シャンタル・アケルマン Blu-ray BOX III

革命的映画作家シャンタル・アケルマン─この微細で巨大な「私」という物語に世界が震える

『ゴールデン・エイティーズ』
美容院やカフェが並ぶパリのカラフルなブティック街を舞台に、そこで働く従業員たち、客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。パステルカラーの衣装に身を包んだ登場人物たちが歌い踊るロマンティックな浮遊感と、愛に対するアケルマンの容赦ない視線が巧みにバランスされている。シナリオにはフランソワ・トリュフォー作品に欠かせないジャン・グリュオー、『ブロンテ姉妹』(79/アンドレ・テシネ)や『美しき諍い女』(91/ジャック・リヴェット)を手掛けたパスカル・ボニゼールと名脚本家が参加した。出演に『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)から10年を経て再びアケルマン作品に参加したデルフィーヌ・セイリグ、『恋愛日記』(77)『私のように美しい娘』(72)『黒衣の花嫁』(68/3作ともF・トリュフォー)などで知られるシャルル・デネル他。

『一晩中』
ブリュッセルの暑い夜、眠りにつくことのできない人々。ある者は恋人の腕の中に飛び込み、ある者は街に繰り出し、夫婦は語らい、そしてある者はバーでダンスを踊る……。官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく、数々の出会いや別れ。詩的な青色の夜を描き出す撮影監督の一人に、『北の橋』(81/ジャック・リヴェット)、80年代のジャン=リュック・ゴダール作品、近年では『アネット』(2021/レオス・カラックス)を手掛けた名女性キャメラマン、カロリーヌ・シャンプティエが参加。主な出演は『アンナの出会い』(78)に続いてオーロール・クレマン、『満月の夜』(84/エリック・ロメール)のチェッキー・カリョなど、50人以上に及ぶ。アケルマンの母ナタリアも顔を見せている。

『家からの手紙』
路地、大通りを走る車、駅のホームで電車を待つ人々、地下道……1970年代ニューヨークの荒涼とした街並みに母の綴った手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。固定ショットやトラベリングで映し出される公共のロケーションと、時折車の音に掻き消されながらも朗読される、愛情溢れる言葉の融合。都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離がエレガントな情感を持って横たわる、映画という〈手紙〉。撮影は、70年代をともにした同志バーベット・マンゴルト。ラストシーンのマンハッタンが美しい。なお本作は『ジョーカー』(2019/トッド・フィリップス)にも影響を与えたことで知られる。