過去10年を振り返り、世界中から最も高い評価を受けた日本で開催された国際イベントは何か。多くの人々は、2019年に日本で開催された「ラグビーワールドカップ」と答えるに違いない。
ラグビーワールドカップは、2019年大会が開催されるまでは、過去8回すべての大会がニュージーランド、オーストラリア、イギリス、フランス、南アフリカといったラグビー伝統国で開催されてきた。2019年の日本開催は、初のラグビー伝統国以外、さらに初のアジア開催という歴史的意義を持つものだった。
こうしてワールドカップ2019日本大会は、世界中から称賛を集め、事前の予想を上回る成功を収めた。その経済波及効果は6,466億円にのぼり、世界中のテレビ視聴者は延べ8億5728万人であった。チケット完売率は99%とワールドカップ史上最高を記録した。ソーシャルメディアによる大会関連動画再生回数は、前回大会と比較し5倍以上の20.4億回に達するなど大きな社会現象となった。テロ事件など大きなトラブルもなく無事に終わった。さまざまな意味で、世界における日本のプレゼンス(存在感)を高めた大会となったのである。
本書は、このラグビーワールドカップ2019日本大会実現の舞台裏にあった組織委員会を中心にした準備・運営プロセスを、物語り(ナラティブ)のかたちでまとめ、知識創造理論の観点から成功と失敗の本質を洞察することに挑戦するもの。その物語りは、ラグビー日本代表がいかに強くなったかではない。世界に認められた国際大会開催という壮大なプロジェクトを導いた組織(組織委員会)の物語りである。
「ラグビーワールドカップ2019」大会の報告書はある。しかし、そこにはプロジェクトに携わった一人ひとりの生々しいドラマは描かれていない。何が組織で起きたのか、その危機に直面した時に、誰が、何を拠り所にどんな判断を下し、どんなアクションを起こしたのかを本書は明らかにする。