この本を読んで約２年半後、夫の赴任先リヨン帯同中、私はモンテ―ニュの塔に見学に行くことが叶った。夫と息子と家族3人で、Bordeaux市近郊サン・テミリオン、塔の近くで宿泊。見学後には受付に併設の売店で、旅館の女主人も読んだというとS.BAKEWELL『Comment vivre?』を記念に、案内人が薦めてくれた現代仏語版の原作、そしてワインも購入した。白ワインは、味が良くて、料理に使用すると鶏の肉質が柔らかく仕上がる優れたもの。サン・テミリオンは、ワインの品質維持及び向上推進のため、毎年、葡萄栽培同業組合が選抜した鑑定委員による、ラベルを隠した「利き酒」に合格が課せられた厳しい格付け。(古い情報だが、辻静雄『ワインの本』より)。

文学部卒業同士の私たち夫婦には、有り難みいっぱいの旅行だった。

帰国後、引越荷物の片付け後、疲労困憊の週末に、本書を読み直した。

“「人々が海岸に横たわっている。あるいは、アペリティフをちびちびやりながら夕食準備をしている。するとラジオから、モンテ―ニュについて語る声が流れてくるんだ。」”(本書、著者まえがき)

この時流に叶った企画意図が、寛ぎの中で古典を嗜み咀嚼する生活が、苦難の最中に、心痛を和らげ、心労からくる重い身体症状をも緩和し、何となく先行きが明るい気持ちに思えるようにしてくれる効能があることに気づいた。多忙な時、元気でない時、不調や病気の時に、重厚なものは受け付けられない。しかし、心の糧となる充実したものを摂取したい。

『エセ―』は、今でもやはり近づき難い雰囲気がある名著ではないかと思うが、関心を持った時は出会いの時だから、敬遠は勿体ないのだ。モンテ―ニュ自身が語っているような感がするほど読みやすい、宮下志朗訳白水社刊の日本語訳から読むこともお薦めするが、万一、読み進められない場合は、本書から読んでも、決して遠回りではなく、抜粋をコンパニョン氏の簡潔な講義と共に読む事は、読者に益することが多い。時間と費用、労力が無駄にならない事を、私は保証しお薦めしたい。電車の中等で読みやすい装丁、文庫や新書よりはサイズが大きいが持ち歩きにも適している。

現在も、全ラジオ放送を聴くことが可。〈Un été avec Montaigne〉で検索、frace inter(franceradio)の該当番組が見つかる。

良質な時間を過ごすために。