七尾旅人、2022年9月にリリースされた最新アルバム『Long Voyage』がLP2枚組のアナログ盤で待望のリリース!
前作『Stray Dogs』のツアー終了直後から世界中、そして音楽シーンがパンデミックに見舞われた2020年から2021年の楽曲を中心に完成された本作は、過去最大規模となったゲストプレイヤーたちと、少年時代からの念願だったというバンド&ストリングス・アレンジで産声をあげた24年目のマスターピース。
今作に至る大きなきっかけとなったストレイ・バンド(Kan Sano、小川翔、Shingo Suzuki、山本達久)は七尾のこれまでの歌の佇まいを損なわぬまま確かな手つきで精妙なバンド・アンサンブルを成立。さらに細井徳太郎、石若駿らジャズの次代を担う俊英たちとのもうひとつのバンド編成が生み出す自由闊達でフリーキーな躍動感、ショーロクラブ沢田穣治のコンダクトによる豊潤なストリングス、血を分けた家族のような親密なサウンドで歌に寄り添う梅津和時、石橋英子、瀬尾高志、Dorian。ミックスおよびマスタリングには、奥田泰次、キムケンと、七尾が最も信頼してきた、世代を超えたソウルメイトたちが並ぶ。
大比良瑞希をパートナーに迎えた賛美歌のようなソウル・バラッド「ドンセイグッバイ」、愛犬たちとのユーモラスな日常から想像を越える世界へと誘われる"Dogs & Bread"などいつの間にか口ずさんでしまう珠玉のポップソングや、入国管理局における在留外国人の人権問題をテーマとした「入管の歌」、コロンブスの新大陸発見から、ジョージ・フロイド氏の悲痛な死に端を発するミネアポリス反人種差別デモまでを壮大なスケールで描き、社会構造のなかで虐げられる誰かの魂を鼓舞しようとする異色の料理ソング「ソウルフードを君と」などこれまでなかなか日本語の歌になりづらかったはずのトピックを歌に変えていった楽曲。そして、ルイ・アームストロング「この素晴らしき世界」のような永遠のスタンダードを想起せずにはいられない名曲「if you just smile(もし君が微笑んだら)」など奇跡的ともいえる豊穣なポップネス全17曲を収録。
パンデミック、そして戦争、日々何かに揺さぶられ続ける世界の片隅で、耳を澄ませ、目を凝らし、あらゆる時空間を横断しながらまるで映画のように紡がれる90分間の忘れがたいストーリー。
発売・販売元 提供資料(2023/06/14)
CD2枚組、全17曲90分の大作。パンデミックの世界を大局的な史観も交えて描いたドキュメンタリー映画のようであり、楽曲の主人公やその目線はあくまでも個人として描かれ、日記を読んでいるような感覚もある。この世の不条理に対する怒りや諦念も滲ませつつ、石橋英子をはじめとした長い付き合いの盟友たちと、Kan Sano、石若駿、大比良瑞希といった彼をリスペクトする若手ミュージシャンが多数集った本作に通底しているのは、あくまで慈しみの目線だ。ショーロクラブの沢田穣治が手掛けるストリングスが全体のムードを規定しつつ、その歌声はフォークの親密さとソウルやジャズ・ヴォーカルの気品を併せ持ち、スタンダード感のある"if you just smile(もし君が微笑んだら)"は特に素晴らしい。文句なく傑作。
bounce (C)金子厚武
タワーレコード(vol.466(2022年9月25日発行号)掲載)