ロバート・クラフト生誕100年記念リリース。ブーレーズ以前に、新ウィーン楽派とストラヴィンスキーの作品を極めた音楽家~生涯をかけて20世紀音楽の普及に尽くしたロバート・クラフトのコロンビア録音の全貌がついに集成なる!
20世紀音楽の普及に多大な貢献を残した音楽家ロバート・クラフト。彼が1950~60年代にかけてコロンビアに録音したシェーンベルク、ウェーベルン、そしてストラヴィンスキー後期の録音は、20世紀音楽のマイルストーンともいうべきこれらの作品の魅力を世界中に音楽ファンに届ける上で極めて重要な役割を果たしました。英グラモフォン誌は「疲れを知らずにわれわれの時代の音楽に尽くす男」と称賛し、指揮者としてのみならず著述家・ストラヴィンスキー財団の継承者としてもストラヴィンスキーや20世紀音楽についての重要な著作を発表し、楽譜の出版にも力を注いだクラフトの生誕100年を記念して、クラフト/ストラヴィンスキー財団の全面的な協力を得て、コロンビア録音のすべてをCD44枚に集大成し、その業績を偲びます。
◎ストラヴィンスキーの信頼篤き音楽家
クラフトは1923年10月20日にニューヨークのキングストン生まれ。12歳のころからストラヴィンスキーの音楽のファンとなり、ジュリアード音楽院で学び、さらにタングルウッド音楽祭バークッシャー音楽センターではクーセヴィツキーのリハーサルで学び、バーンスタイン、ハーヴェイ・シャピロ、アーヴィング・ファインら若き作曲家たちと交友を結びました。24歳で指揮者としてデビューしたクラフトは、自分が主催するコンサートでも「兵士の物語」「ダンバートン・オークス」「八重奏曲」などを取り上げていたクラフトはストラヴィンスキーに直接手紙を書いて交流を深め、ついに1948年にはクラフトのコンサートにストラヴィンスキーが指揮者として登場し、「管楽器のための交響曲」の改訂版を取り上げるまでになりました。若者の才能を見抜いた作曲家は、クラフトを自分の作曲・指揮活動の音楽助手および秘書としてハリウッドの自宅に招いたのです。以後亡くなるまで20年以上にわたって二人の共同作業は続き、クラフトは、ストラヴィンスキーが世界各地から依頼される自作自演のコンサートや1960年代からのコロンビアへの自作録音プロジェクトにもアシスタントとして加わり、恒例の作曲者に変わってコンサートや録音の下稽古を付け、コンサートでは作曲者と指揮台を分かち、さらに作曲者監修のもとで録音も担うようになりました(CD40、42-44)。バレエ「結婚」が初稿、第2稿、決定稿と3種類の稿態が収められているのも特筆すべき点でしょう。
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発売・販売元 提供資料(2023/04/14)
◎世界初の「ウェーベルン全集」の録音を敢行(CD2-4)
録音面でクラフトの名をまず世界的なものにしたのは、ストラヴィンスキーではなく、新ウィーン楽派の「ミニマリスト」ともいうべきウェーベルンの作品でした。1954年から1956年にかけて、クラフトは、ソプラノのマーニ・ニクソンやピアノのレナード・スタインらとともに、フリーランスの音楽家を集めたアンサンブルでウェーベルンの作品番号付きの作品をすべて録音。その成果は4枚組のLPとして1957年に発売され、大きな話題を呼びました。当時米国の権威ある音楽誌だった「ハイ=フィデリティ」誌は、「壮大な事業であり、大きな成功とともに達成された、ウェーベルンを理解したその演奏は、コロンビア・レコードとの素晴しいコラボレーションであり、現代のディスコグラフィの主要な記念碑として長く残るものだ」と絶賛し、さらに同誌は後に「モノラル録音の10傑の一つ」に数えています。
◎ステレオ録音で成し遂げた「シェーンベルク全集」全8巻(CD21-39)
またクラフトは、ウェーベルンの師であったシェーンベルクの作品の演奏と普及にも取り組み、コロンビアへの初録音となったモノラル時代の1953年(CD1)からステレオ期の1966年まで、継続的にその作品を録音(世界初録音多数!)し、特に1963年からは「アルノルト・シェーンベルクの音楽(シェーンベルク全集)」と題したシリーズの発売を開始し、各LP2枚組16枚にわたる録音は、クラフト自身がシカゴ響、クリーヴランド管、コロンビア響を指揮したオーケストラ曲のほか、やはりシェーンベルクの音楽の大家であったグレン・グールド、ジュリアード弦楽四重奏団、オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団、当時のアメリカで活躍していた歌手陣による演奏も含む一大アンソロジーで、コロンビアの鮮明なステレオ録音によって、シェーンベルクの複雑な音楽の魅力が極めて明確な形で音楽ファンに伝えられることになりました。多くの場合クラフト自身が筆を執った詳細な楽曲解説(譜例や図版入り)が付され、文字情報としても正しい形でシェーンベルクの音楽史上での立ち位置が定義されることになりました。1974年の時点で、シェーンベルクの作品の4分の1、18曲の悪品はクラフトによる録音しかなく、「ハイ=フィデリティ」誌は「現代の最も重要な音楽的遺産であるシェーンベルクの音楽を広める上で並外れた賞賛に値する努力のたまもの」と絶賛しています。日本でも、当初は日本コロムビア、そしてその後はCBSソニーから国内盤LPが発売され、クラフトの解説の訳のほかに、作曲家・評論家の柴田南雄による名解説が付されたアルバムは日本独自のジャケット・デザインによって、広く聴かれるようになりました。
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発売・販売元 提供資料(2023/04/14)
◎アルバン・ベルクの魅力を開示
クラフトはまた、新ウィーン楽派の著名作曲家アルバン・ベルクの録音も手がけており、1959年には「アルテンベルク歌曲集」(CD11)、1960年には傑作「3つの管弦楽曲Op.6」(CD14)、そして1961年には「ルル組曲」、「抒情組曲」「室内協奏曲」などの重要作をおさめた2枚組のアンソロジー(CD15-16)を発売しています。現代音楽の権威であるエリック・ザルツマンは、「ニューヨーク・タイムズ」紙で、「室内協奏曲」の録音について「美しいアーティキュレーションとフレージング。優れた技量を持つヴァイオリニストとピアニストも見事で、統一されながらも驚くほどの多様性や軽快さ、そして機知を開陳する作品のコンセプトにぴったりだ。緊張感や力強さも十全に表現されている。『ぶどう酒』や『7つの初期の歌曲』も同様に素晴らしく、ソプラノ歌手のベサニー・ベアーズリーらの絶妙な歌唱が聞きものだ」と評しています。
◎ヴァレーズ、ブーレーズ、シュトックハウゼン
クラフトのコロンビア録音の中で、さらに特筆されるのは、ブーレーズ「ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)」(ブーレーズの自作録音に次ぐ2種目の録音)とシュトックハウゼン「ツァイトマーセ」(これもブーレーズ盤に次ぐ2種目の録音)のアメリカでのパイオニア的録音(1958年、CD8)であり、またに1960年と1962年に発売された2枚のエドガー・ヴァレーズのアルバム(CD12、20)でしょう。特にヴァレーズのアルバムは主要オーケストラ曲が収録されており、この破天荒な作曲家の面白さをいち早く世に知らしめることになった画期的な役割を果たしました。
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発売・販売元 提供資料(2023/04/14)
◎ジェズアルド、モンテヴェルディ、バッハ、モーツァルト
現代音楽の騎手であったクラフトですが、一方で古楽にも深い興味を持ち、中でもイタリア・ルネサンス期の個性的な作曲家カルロ・ジェズアルドに魅せられ、4枚ものLPを録音しています(CD6、9、17、41。歌手の中には名メゾ・ソプラノ歌手のマリリン・ホーンも含まれていました)。大胆な半音階進行、転調、不協和音に満ちたジェズアルドの作品は、その好奇な伝記的エピソードと相まって大きな注目を集めました。さらにクラフトは、モンテヴェルディの大作「聖母マリアのための夕べの祈り」全曲(CD32・33)、シュッツのモテット集(CD10)、バッハのカンタータ(CD13、27)、モーツァルトの「グラン・パルティータ」(CD19)の録音も残しています。
◎オリジナルLPジャケット・デザインを採用
従来の当シリーズ同様、このボックスセットでも、各ディスクは米国初出盤のジャケット・デザインによる紙ジャケットに封入されており、詳細な録音データとトラックリスト、未発表のセッション写真や図版、クラフトのコメント抜粋が掲載された124ページのカラー別冊解説書とともに、厚紙製クラムシェル・ボックスに収容され、コレクターズ・アイテムとしての価値を高めています。クラフトは、ストラヴィンスキー没後は公の場での演奏を縮小し、著作やエッセイの執筆、楽譜の校訂により力を注ぐようになりますが、録音は最晩年まで継続し、3種の「春の祭典」や2種の「エディプス王」を含むストラヴィンスキー作品、「グレの歌」を含むシェーンベルク作品のCD録音に心血を注いでいました。当ボックスで集大成されたコロンビアへの画期的な録音のCD化によって、録音の上ではピエール・ブーレーズと並び称されるべきクラフトの業績をようやくきちんとした形で振り返ることができるのです。
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発売・販売元 提供資料(2023/04/14)