革命的映画作家シャンタル・アケルマン─この微細で巨大な「私」という物語に世界が震える

『囚われの女』
フランスの作家マルセル・プルーストによる20世紀最大の文学『失われた時を求めて』第五篇「囚われの女」を大胆に解釈、現代の物語として自由な映像化を果たした。嫉妬に苛まれ、愛の苦悩に拘束される虜囚の境地をアケルマンは洗練された手腕で巧みに描写する。
ジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』(63)やアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(58)を想起させ、公開年には映画史「カイエ・デュ・シネマ」ベストテンで2位に選ばれた後期アケルマンを代表する傑作。

『オルメイヤーの阿房宮』
アケルマンが2011年に発表した最後の長編劇映画。
「闇の奥」などで知られるイギリスの作家ジョゼフ・コンラッドが19世紀末に発表した処女小説を脚色。『囚われの女』のスタニスラス・メラールを主役に据え、時代も場所も明かされず抽象化された設定の中、狂気と破滅の物語が繰り広げられる。アケルマンは樹々の繁る湿地の空気を捉えて、時間の感覚を麻痺させてゆく。また街並みを自在に歩き回る娘を横移動で捉えたカメラが素晴らしく、幻想的なまでに美しい。

『ある日、ピナが…』
1983年に発表されたアケルマンのドキュメンタリーで世界的舞踊家・振付家ピナ・バウシュと、ドイツ・ヴッパタールを拠点とする彼女のダンス・カンパニーを撮ったもの。
ピナは演劇的な要素にダンスを取り込むスタイル(タンツテアター)を確立し、多くの傑作群を世に残した。それらの作品は今なお上演され続け、芸術の幅広い分野に大きな影響を与えている。アケルマンはこのカンパニーの創作過程を作品のシーンとともにダンサーの言葉やピナへのインタビューを交え克明に記録した。ピナは2009年に亡くなったため、本作は貴重な記録となった。