革命的映画作家シャンタル・アケルマン─この微細で巨大な「私」という物語に世界が震える

『私、あなた、彼、彼女』
アケルマンの長編デビュー作。彼女自身の演じる一人の若い女性が部屋で家具を動かし手紙を書き、裸で砂糖をむさぼる。やがて部屋を出た彼女はトラック運転手と行動を共にし、訪れた家で女性と愛を交わすのだった……。
撮影時24歳だったアケルマンによる"私"のポートレイト。モノクロームで描かれる殺風景な空間と単調な行為が、彼女の閉塞感や孤独を際立たせる。また後半では女性とダンスのように激しく身体を重ね合うことで、その悦びをドラマティックに表現する。彼女の道程を緊張感を持って見つめることによって、私たちはその"時間"を彼女と共有するだろう。

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』
2022年英国映画協会発行「サイト&サウンド」誌による世界の映画批評家・研究家が選定した史上最高の映画第1位。
主婦ジャンヌは思春期の息子とブリュッセルのアパートで暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、"平凡な"暮らしを続けているジャンヌだったが─。
アパートの部屋に定点観測のごとく設置されたカメラによって映し出される反復する日常。精緻に計算された演出、すべての行為、身振りやしぐさの執拗なまでの描写が、私たちに時間の経過を体感させる。『去年マリエンバートで』(61)『ブルジョワジーの密かな愉しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグがジャンヌを演じ、アケルマンの記念碑的代表作となった。

『アンナの出会い』
アケルマンによる長編ドラマ3作目。映画監督アンナは最新作のプロモーションのため、列車でヨーロッパの都市を旅しながら様々な人と出会う。教師、母親、母親の友人らとの接触を挟み、日常に溶け込むことのない断片的な空間と時間を通して、常に孤独に彷徨い歩く主人公の姿を描き出した。抑制された台詞で様式性を際立たせた画面に、アケルマンの鋭い人間観察を内包した異色作。
出演に『パリ・テキサス』(84)のオーロール・クレマン、『キャバレー』(72)のヘルムート・グリーム、『フェリーニのアマルコルド』(73)のマガリ・ノエル、『好奇心』(71)のレア・マッセリ、そして『影の軍隊』(69)のジャン=ピエール・カッセルという豪華キャストが揃った。