日本を代表する作曲家・一柳慧は、言うまでもなくピアニストでもある。そのパフォーマーとしての手腕がいかんなく発揮された演奏の記録を集めてみた。
1950年代から60年代初頭にかけて作曲された代表作《ピアノ音楽第1-第7》から半世紀以上を経て新たに生まれた《ピアノ音楽第8》と、ギャラリーでのプリペアドピアノを使った即興演奏における冷徹さは、同じピアニストとして深く共鳴するデヴィッド・チュードアを想起させる名演。どちらの演奏も、しばしば協働してきた電子音楽エンジニアで演奏家の有馬純寿(ありますみひさ)が、電子的な変調を加えている。そのチュードアのために書かれたシルヴァーノ・ブソッティの1959年の作品《デヴィッド・チュードアのための5つのピアノ曲》を弾いた珍しい音源も発掘!若い頃の演奏と思われ、キレキレである。

1. シルヴァーノ・ブソッティ: デヴィッド・チュードアのための5つのピアノ曲より 第3番 / 1959年作曲
ピアニスト高橋アキの夫で音楽評論家だった、故秋山邦晴が遺した膨大なカセットテープの中に、この作品の録音が2つ収められたものがあった。一つは一柳慧、もう一つはD. Tudorとだけ書かれている。それぞれは曲が同じというだけで関連はないように見える。おそらく秋山は、大学などで教材として使うために、この作品に焦点を当てて編集したのだろう。
カセットには、5曲の小品からなるこの作品のうちの、どれを弾いたのかは明記されていない。ブソッティはしばしば絵画のような図形楽譜で作曲するので、一聴しただけでは判別がつきにくいが、楽譜を持っている高橋アキによれば、3番と思われるとのことだった。一柳はこの録音について記憶にないようだが、弾いたとすればNHKか草月アートセンターだろうという説明があった。

2. 一柳慧: ピアノ音楽第8 / 2012年初演
7曲ある《ピアノ音楽》は、すべて1950年代末から60年代初頭にかけて作曲され、一柳本人を始めデヴィッド・チュードア、高橋悠治らが演奏してきた。2011年に河合拓始によって、初めて全曲をまとめて演奏・録音された(OMEGA POINTよりCD化されている)。2012年9月8日に、国立近代美術館で開催された「14の夕べ」で初演されたこの《第8》も、他の《ピアノ音楽》と同時期に構想されていたという。《第1》から《第7》で用いられた図形や言葉といった記号的要素に加え、記譜を超えた「脱記号的」な要素を導入することが試みられ、空間的な音表現を含めた演奏の時間的な流れのみが示されている。初演時と同様、有馬純寿が電子的なアシストをしている。録音は2014年1月15日に東京文化会館小ホールで行われた、一柳の80歳記念コンサートでのもの。

3. 一柳慧: 浅葉克己展における即興演奏 / 2009年
2009年神奈川県民ホールギャラリーで、グラフィックデザイナーでアートディレクターの浅葉克己(あさばかつみ)の展覧会「デザインの港。浅葉克己展。」が行われた。この演奏は会期中の7月20日に会場内で行われ、浅葉が研究していたトンパ文字を一柳が楽譜に見立ててプリペアド・ピアノで演奏した。トンパ文字とは、中国雲南省北部の少数民族、ナシ族の間で古代から現代まで伝承されてきた象形文字。有馬がコンピュータで変調を加えている。

発売・販売元 提供資料 （2022/09/29）