天才は秀才の延長上にはいない。秀才は積み上げである以上、普通の人でもなれるが（厳密にはそれさえも才能が必要だが）天才にはなれない。。いみじくもヴィトゲンシュタインが言ったように「我々は階上に上らなければならないが、登った後はその梯子を外さなければならない」。わたしのような十分老人といわれるような人間でもフルトヴェングラーの実演は聞いたことがない。だがこのCDに聴く繊細な表情から巨大なスケールへの変化、万華鏡のように無限に移ろいゆく音色…。フルトヴェングラーは真の天才であった。そしてそのCDを聴くことが出来る。これを幸いと言わずにはいかないだろう。

自分にとってフランクの交響曲の唯一無二の演奏である。正直なところ、あまり面白くない交響曲だと思っていた。フルトヴェングラーのこの録音を知るまでは。かつて世評の高かったカラヤンのEMI録音など、ただひたすら響きの美しさのみを追求しているように思われ、この作品へのアプローチの仕方としてどうなの？という違和感を拭えなかった。フルトヴェングラー以外では、ゲルマン的茫漠とした世界を見せるクレンペラー、心理分析的でホラー映画音楽的な様相すら見せるマルティノンの演奏が両極端ではあるが自分には好ましい。（とにかくこのCDは買います。この売り方は、マニア向けであり、新しいリスナーを生み出す可能性は低いように思われますが。）他の演奏のことばかり書いてしまったが、フルトヴェングラーのこの演奏を知らない人には一度聞いていただきたいと思う。フランクが循環形式で何を言おうとしていたのか強い説得力を持って迫ってくる演奏だと自分は思う。