ザ・ボウ・メーカー

気鋭の作曲家・藤倉 大が自ら奏でるシンセとヤン・バングのサンプリングによる、アクティヴで多次元な音楽空間。 (C)RS

気鋭の作曲家・藤倉 大が自ら奏でるシンセとヤン・バングのサンプリングによる、アクティヴで多次元な音楽空間

藤倉 大とヤン・バングの『The Bow Maker』は、冒頭の「Night Poles River」から8曲にわたる多次元な音楽の動きで構成されたアルバムであり、通常の作曲という意味ではなく、実際の動きという意味で、常にアクティブに、リスナーを包み、夢幻泡沫な音響空間で囲い込みます。
藤倉 大はシンセサイザーで全編を担当(オーケストラのサンプルを使用した「Implanted Memories」を除く)。ヤン・バングはサンプリング、サウンド・プロセッシング、プログラミングを独自に使用。そこに常に変化するキャストが参加していきます。アイヴィン・オールセットのギターは、テクスチャーの要素、広く暖かいグリッサンド、そして正体不明の短い音々を挿入します。アルヴェ・ヘンリクセンは流麗なトランペット演奏と息の長いファルセット・ヴォーカルを披露しています。ニルス・ペッター・モルヴェルのトランペットは、ヘンリクセンと音楽のDNAを共有しながらも、異なるムードを提供します。タイトル曲のカティ・ライティネンの共鳴するチェロは、周囲の移り変わる音世界と刺激的な質感のコントラストを生み出しています。東野珠実の笙は、切り立った山や谷をうねり、転がるような独特の音場を作り出します。それぞれの作品のムードや雰囲気は、時に広くゆったりと、時に閉鎖的で集中的に、時に暖かくぼんやりと、時に冷たく澄み切ったように、はっきりと分かれています。ドラム、プリペアド・ピアノ、オーケストラ、フィールド・レコーディング、あるいは操作された他の楽器のエコーなど、一瞬の要素がこれらの空間を支配し、その中で主役であるトランペットや声、あるいはその両方が飛び回り、一種の生命体を織り成していきます。それは、まるで障子の向こうの照明やシルエットが様々に変化している様子に似ています。
電子音楽であるにもかかわらず、サウンドスケープの中での音々は明確に区別される一方で、その真の出所がしばしば不明となっています。それは音楽の有機的な精神と、参加ミュージシャンの多才さとの組み合わせによるものなのでしょう。一見、自由形式のように見えるこの作品には微妙な構造があり、その上を音楽が風に吹かれた絹のように流れ、この支持構造を不明瞭にしたり、その輪郭をくっつけたり、あるいは簡単に露出させたりと揺れ動いているのです。最後の曲「サテライト・シスター」は、暗黙のうちに繰り返される対位法によって、おそらく従来の歌の構造に最も近い形で作られています。
このアルバムは、間違いなくプンクト・サウンドの完璧な例と言えるでしょう。このアルバムは、気づかれないように背景にたたずむ音楽でもなく、ニューエイジのメディテーションのサントラでもなく、音の家具でもありません。リスナーと直接関わり、リスナーの意識に積極的に浸透し、リスナーの注意を惹きつける音楽なのです。このアルバムは、ヤン・バングとエリック・オノレが監修するジャズランド・レコーディング傘下のプンクト・エディションから最初にリリースされた、本物のプンクト・サウンドです。