音楽は私の中にある――。
アフリカ音楽を代表する女性アーティストであり、世界的スーパースターとして広く尊敬を集める、マリ出身のオム・サンガレの約5年振りとなるニュー・アルバム『TIMBUKTU』完成。マリ音楽の伝統を受け継いだ彼女の唯一無比な声とサウンドにブルースやフォーク、ロックの要素を融合させ、国境やジャンルにとらわれない時代を超越した名盤がここに誕生した。
アフリカ音楽を代表する女性アーティストであり、世界的スーパースターとして広く尊敬を集める、マリ出身のオム・サンガレ。"The Songbird of Wassoulou"(ワスルの歌鳥)とも呼ばれることがある彼女が、高い評価を集めた2017年の前作『MOGOYA』に続くニュー・アルバムをリリースする。約5年振りとなる新作は、マリ音楽の伝統を受け継いだ彼女の唯一無比な声とサウンドにブルースやフォーク、ロックの要素を融合させ、国境やジャンルにとらわれない時代を超越した作品となっている。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2022/02/10)
2020年3月、オムは自身の生まれ故郷であるマリ南部の文化芸術を広めるために2016年に立ち上げた"International Wassoulou Festival(FIWA)"のためにアメリカに渡った。当初は数週間の滞在予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大によりアメリカがロックダウンに。滞在を延期せざるを得なくなった彼女は、最初はニューヨーク、次にボルチモアへと移り、居心地の良い場所を探して過ごしたという。
「あの街にはすぐに惹きつけられた」ボルチモアについてウムをそう語る。「あまりにも居心地がよかったので家を買ってしまったわ!」
新しい住まいに落ち着いてから、彼女は最初からマリの伝統的なリュート、カメレ・ンゴニを担当している古くからの友人、ママドゥ・シディベの手を借り、曲作りを始めた。『TIMBUKTU』に収録されている11曲のうち10曲は、このロックダウン生活の中で生まれたものとなる。本作で彼女は、伝統的な西アフリカの楽器、特に後にブルースの歴史にも組み込まれていくカメレ・ンゴニと、その遠い子孫であるドブロやスライド・ギターとの間に親密な音のつながりを織りあげている。「1990年以来、私は世界から自分を切り離し、音楽だけに没頭する機会がなかった」ロックダウンでのアルバム制作について彼女は語る。「隠遁し、瞑想することが出来たことを音楽だけでなく、歌詞の中にもそれを感じることができると思う」
事実、本作ではオムの作る歌詞がこれまで以上に詩的で深みのあるものになっている。存在の神秘、母国マリが現在直面する深刻な状況、アフリカ女性が置かれている立場などに対する自身の考えや想いを自身の音楽に反映させているそのパワフルな姿は、若い頃からの信念や拘りも今も抱き続けている証拠だろう。「Degui N'Kelena'」の内省的な雰囲気から「Kanou」の艶っぽい気怠さ、「Demissimw」の思いやりに「Kele Magni」に込められた憤り、そして「Wassulu Don」で表現された誇りまで、本作『TIMBUKTU』は、ワスルの伝統的リズムのダイナミズムと、現代音楽の言語を融合させた大胆なサウンド・アプローチで、彼女のこれまでの作品の中でも最も野心的で達成感のある作品となりそうだ。
「音楽は私の中にある」そう明言するオム。「音楽が無ければ、私には何もない。何ものも私から音楽を奪うことはできないわ。私は自分の人生をこのアルバムに注ぎ込んでいる――飢え、貧困と恐怖の屈辱を知った私は、今、それらから栄光を引き出している」
マリ帝国時代に反映し、かつて"黄金郷"として知られていた都市の名をタイトルに抱く、オム・サンガレの重要作がここに届けられた。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2022/02/10)
冒頭のブルージーなギターリフだけでわかる。これはウム史上前例のない骨太パワフルな大傑作だ! 西アフリカはマリが誇るアフリカ最高のシンガーという枠さえ越えていまやビヨンセからアヤ・ナカムラまでに影響を与え、近年は音響を意識したサイケ作や生感を重視した実験的と言える痛快に尖った作品を発表してきたウム・サンガレ。今作では西アフリカの弦楽器でブルースとも親密な繋がりのあるカメレ・ンゴニの奏者ママドゥ・シディベと共に楽曲制作を行ったことからか砂漠の民さながらのブルース色が濃厚。年々深みを増す塩辛い歌声との相性も抜群で、ストレートにテンションのあがる作品となっている。
intoxicate (C)小畑雄巨
タワーレコード(vol.157(2022年4月20日発行号)掲載)