音楽にすべてをゆだねるホテル・サレンダーへようこそ。チェット・フェイカーがハッピーな音楽とともに帰ってきた!
2016年、本名のニック・マーフィー名義で活動していくことを発表したオーストラリアのインディー・ソウル・エレクトロニック・アーティスト、チェット・フェイカー。二つの名を持ったからこそ、得ることが出来た音楽性の深みを多幸感溢れるポップ・エレクトロ・サウンドに昇華させた最新作『HOTEL SURRENDER』完成。アナログも同時発売!
オーストラリアのインディー・ソウル・エレクトロニック・アーティスト、チェット・フェイカー。2014年にデビュー・アルバム『BUILT ON GLASS』でオーストラリアのグラミー賞と呼ばれるARIAアワードを受賞しブレイクを果たし、フジロック・フェスティヴァルにも出演を果たした彼だが、2016年、本名のニック・マーフィー名義で活動していくことを発表。"次なる形"としての自分を追求しながら作品を発表し続けていた。
そのニックが再びアーティスト名を"チェット・フェイカー"に戻し、シーンに戻ってきた。ニック・マーフィーとしてリリースした2019年の『RUN FAST SLEEP NAKED』以来、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『HOTEL SURRENDER』を完成させた。前作のツアーを終え、ニューヨーク・シティにある自分のスタジオで曲作りを始めた彼だったが、新たな楽曲がいずれも初期作品を思わせるような雰囲気を持っていたという。昔のプロジェクトを蘇らせることは全く考えていなかったと認めている彼だったが、気づいたらアルバム1枚分の楽曲が出来ていた。その10曲が本作『HOTEL SURRENDER』となった。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2021/04/23)
2014年、チェット・フェイカー名義でリリースしたデビュー・アルバム『BUILT ON GLASS』がそうであったように、本作もまたマーフィーが一人でソングライティングからプロデュースまでを手掛けたアルバムとなった。新型コロナウイルスがアメリカで本格的な感染拡大を見せる前の2020年3月までにほとんどの楽曲が完成したが、その後、国中がロックダウンに入り、マーフィー自身も父親を亡くすという悲しい出来事を経験した。すると突然、完成寸前の"ごきげんでフィール・グッドな"音楽が、深い意味を持つようになったのだ。
「大きなパラダイムシフトが自分の中で起きていた」そう彼は振り返る。「音楽を違った形で考えるようになった。今は音楽を集団セラピーとして捉えている。前は、クリエイティヴな十字軍、もしくは長い冒険に出ているかのように捉えていたんだ。今はもっとシャーマニズム的な見方をしている。どんな時でも光を探すべきだし、時と場合によっては闇も――そしてそれらを分かち合う必要があるんだ。それこそが、チェット・フェイカー・プロジェクトの核だと気づいたんだ。世の中が痛みを感じていると思ったから、人にちょっとした喜びをもたらす小さな何かだったら自分にできるんじゃって考えたのさ」
ポップ・アンセムとも呼べそうなダンサブルなリード・シングル「Low」から、ファンキーなピアノのグルーヴが印象的な「Get High」、聴いている人を鼓舞するようなメロディーの「Feel Good」や荘厳なインストゥルメンタルが響く「So Long So Lonely」まで、『HOTEL SURRENDER』には多幸感溢れるサウンドが詰まっている。それは新型コロナウイルスのパンデミックにより不確かな1年を送った人々に"明日なんて知ったことか、今の人生が大事だ"と呼びかける「Whatever Tomorrow」にも感じられる。
「今作で自分が学んだ重要なことは、嬉しいという気持ちから曲を作れるということだった。また自分を大切にするようになった。ここにある音楽はどれも痛々しくないし、ただ聴いていて心地よい。自分の気持ちを上げてくれたし、良い人であろうと思わせてくれた」マーフィー自身、アルバム収録曲についてそう語る。そしてこの境地に至ることが出来たのは、2016年にチェット・フェイカーの名を一度置き、自分の音楽性の深いところを探求した音楽を、自分の本名で発表してきたからこそだと説明する。
「チェット・フェイカーについて人々が抱いているアイディアを一度、解き放つ必要があった。でもそうしてよかったと思うよ、そのおかげでチェット・フェイカー・プロジェクトを状況的に説明することが出来るようになったから。自分がチェットの名で作り上げたものにとらわれることなく、音楽性を広げ、新しいことを沢山吸収することができた。音楽を作ることがまた本当に楽しくなったんだ」そう語るマーフィーは、こう付け加える。「心からハッピーな音楽を作るには、自分自身が抱える悲しみを理解しないといけない。この作品によってこの域までに到達した。悲しいことは十分に味わったからね」
ニック・マーフィーが"チェット・フェイカー"を再び名乗ることによって辿り着いた、深くもハッピーな音世界。音楽にすべてをゆだねる場所、それが『HOTEL SURRENDER』なのだ。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2021/04/23)
Reviving the Chet Faker persona hed abandoned back in 2016, Nick Murphy finds salvation in the hypnotic grooves and dark electronic soul of Hotel Surrender. Fakers breakout 2014 debut was a chilled-out delight of crafty trip-hop beats, jazzy sway, and disarmingly rich vocals. The two follow-up records he made under his given name found the Australian singer/producer nurturing his organic pop tendencies to strong critical response but lackluster chart performance. Back in Faker mode, he wields an effortless sense of cool, assembling a set of mood pieces that are cathartic in a subtle and often joyful way. Recording in New York just as the city was entering the 2020 pandemic lockdown, Murphy was dealt an additional blow by the sudden death of his father. Shaded by tragedy and global tension, he recast his project as a form of therapy in the hopes of offering some shred of inspiration, to himself and others. Laid out like a mission statement in the spoken intro of Oh Me Oh My, Faker intones with weary wonder Music does something, I dont know what it does, I just accept it as the sky is blue. As the track kicks in, he delivers a tour de force full of slinky charm and quirky asides sounding like a hip-hop Andrew Bird or a bluesy Beck. Another highlight, Low, is full of bootstrapping affirmations and eerie dub-like sonic details. As Faker rolls through dreamy electro soundscapes (Whatever Tomorrow) and funky neo-soul (Feel Good and So Long So Lonely), he sounds more fascinated by lifes turns than bummed out by them. Proof that you cant keep a good man down, Hotel Surrender is a testament to Murphys skills as an artist and his attitude as a person. ~ Timothy Monger
Rovi
ここ数年は本名のニック・マーフィーとして活動していたメルボルン出身のシンガー・ソングライターが、アルバムとしては初作『Built On Glass』(2014年)ぶりに元の名義での新作をリリース。ロックダウンを経て内省に回帰した結果、作っている途中で本人が〈チェット・フェイカーの作品〉だと思ったそうだが、かつてのレフトフィールドでアンビエントな作風にニック名義での開放感が融和した出来映えは非常に耳馴染みがいい。佳作。
bounce (C)狛犬
タワーレコード(vol.452(2021年7月25日発行号)掲載)