これこそが21世紀のタンゴ! ディエゴ・スキッシ・キンテートの2021年新作がリリース決定!
ディエゴ・スキッシ・キンテートの2021年新作がリリース決定! 前作『Tanguera』ではタンゴ黄金時代の大作曲家マリアーノ・モーレスの曲をディエゴがアレンジしたものだったが、今作は2016年作『Timba』以来5年振りとなるオリジナル曲によるスタジオ・アルバムだ。とはいえ、まずこのアルバムについて語る前に、アルゼンチン出身のシンガーソングライターで、南米を代表するロックスターであるルイス・アルベルト・スピネッタが1973年に、ペスカド・ラビオーソというバンド名義でリリースした名盤『Artaud』の3曲目「Por」について語らねばなるまい。この曲はスピネッタの中でも最も奇妙な曲のひとつで、シュルレアリスムと密接な関係を持つことで知られている。というのもこの曲の歌詞は、所謂ストーリーに沿った言葉ではなく、46の独立した単語のみで構成されているからだ(正確には45個の単語と1つの前置詞 por)。その46個から19個を抜き出したものこそ、今作の収録曲の曲名である。そしてタイトルについてだが、デビュー作『Tren』以降、『Tongos』、『Tipas y tipos』、『Timba』、『Tanguera』というTangoの頭文字でもあるTから始まる言葉にアルバムのタイトルが選ばれてきたが、今作のタイトルは『Te (あなた)』。詳しくはわからないが、インストゥルメンタルの作曲家でありながら、言葉にもこだわり続けたディエゴらしい、タンゴと結びついたコンテクストがそこにはまたあるのだろう。
ここからは音楽的な内容に移ろう。ピアノ、バンドネオン、コントラバス、ギター、ヴァイオリンというアストル・ピアソラが五重奏という編成を決定づけた楽器で構成される、結成以来変わらないメンバーで紡がれる鉄壁のアンサンブルはさらに高みへと昇っていることを感じさせる先行シングルである冒頭曲「Arbol」からして驚きを禁じ得ない。すべてのパートをパーカッシヴにとらえるというドラムがないアンサンブルでありながらしていかにリズムを打ち出していくかというタンゴの命題への明確な答えでもある名曲だ。ジャズ・ピアニストとして出発し、現代音楽を学び、そして幼いころ聴いていたタンゴへと路を進めたディエゴ・スキッシについて、タンゴの破壊者でもあり、タンゴを狭き門ではなく、クラシックや現代音楽、ジャズのリスナーへ開かれた場所へと導いた巨匠ピアソラがもし生きていたら、ディエゴの音楽に対してなんと言うのだろうか。ともあれ、これこそが21世紀のタンゴであり、ディエゴ・スキッシこそが、タンゴの後継者であり破壊者であることは間違いない。
発売・販売元 提供資料(2023/02/07)
壮絶な物語性、狂気と見紛うほどの情熱、重力を倍増させる緊張感、そして異世界へと誘う幻想的旋律。ディエゴの音楽を聴いていると時々気が狂いそうになる。それでも聴くことを止められない。自分の中の"なにか"が解放されそうな気がするからかもしれない。五重奏によるこの新作、現状聴ける唯一の曲《Arbol》の感想でしかないが、タンゴの破壊者とはよく言ったものだ。タンゴに置けるリズム面に振り切れた楽曲と言えばいいか。叙情性は排除されミニマルに、全ての楽器が打楽器のように使用される。太古の昔、現在よりもはるかに進んだ文明を築いていた人類がいたなら彼らの音楽はこうだったかもしれない。
intoxicate (C)小畑雄巨
タワーレコード(vol.151(2021年4月20日発行号)掲載)