『マゼールのベートーヴェン全集 聴き所』
鬼才マゼールとベートーヴェン
マゼールが当時の手兵であるクリーヴランド管と1977年から1978年に掛けて比較的短期間で一挙にスタジオ録音したソニー盤が第一回目の全集となります。この演奏は、超優秀なオーケストラを駆使してまるで楽器間の音色の融合を拒絶したかのような細部の強調を異常なまでに拘りました。これはもはや室内楽的演奏を通り越したCTスキャン的な演奏として賛否両論を巻き起こしました。
これを遡ること20年前の1950年代後半にベルリンフィルと行った「運命」と「田園」のスタジオ録音は20代後半という若々しさと爽快さに満ちながらも基本はオーソドックスな表現でありました。さらに1980年のウィーンフィル名古屋公演における「運命」もデジタル録音初期に発売がありました。こちらは重々しさが強烈でな個性の強い演奏として今なお高い人気を誇っております。
演奏会では1988年にロンドンで三つのオーケストラを使って、1日で全9曲の演奏を行うなど、イベント的な挑戦も行っております。その結実が2010年12月31日に日本で行った特別編性のオーケストラによる全曲演奏会で、これまた大きな話題を呼びました。他にも日本では1994年にフィルハーモニア管と全曲演奏会を敢行しております。
間違いなくマゼールにとって中核のレパートリーであったベートーヴェンですが、全曲録音となるとクリーヴランド管との演奏が唯一。そこに登場するのが2008年シチリアに於けるベートーヴェン・ツィクルスであります。
かのゲーテがここを訪れた際に「ここからの景色は世界一の美しさ」と賞賛した、シチリア最大の名所タルミーナのギリシャ劇場。真夏の夜の野外劇場にて五日連続で行った演奏会は大成功を収めました。演奏時間を見ればお分かりの様に基本的に物凄い快速!特に第7番の終楽章は6分少々という暴れっぷり。しかし雑にもしっちゃかめっちゃかにならないところが指揮棒のヴィルトウオーゾ、マゼールのマゼールたる所以です。常に冷静な眼が光っております。第5番は、今までの演奏とは信じがたい程にトスカニーニに傾斜した演奏で筋肉質で快速で厳格なリズム感。威厳漂う名演。第1番や第2番の初期交響曲、小さな第8番に味わいが深いのも巨匠ならではです。第4番、第6番はデリケートさを保ちつつもエッジの利いたフォルムに感動。「英雄」や第九の芸格の大きさはマゼールが老境に入って真の巨匠になった証とも申せましょう。
当盤はエンリコ・カスティリオーネ監督率いる映像収録から音源をCD観賞用にマスタリングしなおして発売するもので、艶やかな高音質で聞き手に迫ります。(2/2)
東武ランドシステム
発売・販売元 提供資料(2021/02/08)
真打登場!今年もベートーヴェン・イヤー!
マゼール+トスカニーニ・フィル
ベートーヴェン:交響曲全集2008ライヴ!
かのゲーテがここを訪れた際に「ここからの景色は世界一の美しさ」と賞賛した、シチリア最大の名所タルミーナのギリシャ劇場。マゼールはここで2008年の夏に一気にベートーヴェン・ツィクルスを展開し大きな話題となりました。巨匠にとってベートーヴェン全集はクリーヴランド管との1970年代のソニー盤のみ。アンサンブルを強烈に締め付け、トスカニーニ張りの力瘤が盛上るような元気なベートーヴェン。やたらと早いテンポですっ飛ばしたり、対旋律の意識的な強調等。一筋縄ではいかない鬼才ぶりを発揮しております。自信、確信に満ちた巨匠らしい巨匠としての他との格の違いをマザマザと見せつけます。野外公演ながらヨーロッパ好みの完璧なマルチマイク収録であり、隅々まで明瞭で眼の前で演奏してくれているかのよう。お相手はトスカニーニ交響楽団です。来日公演ではトスカニーニ・フィルの名称も使われました。トスカニーニ交響楽団は2002年にパルマにて創設された若いオーケストラ。デビューコンサートも指揮した巨匠マゼールは2004年から音楽監督を務めて鍛えぬき、ヨーロッパでも有数のアンサンブルに成長。2005年、2007年は来日公演も敢行しました。(1/2)
東武ランドシステム
発売・販売元 提供資料(2021/01/20)
ロリン・マゼール(1930-2014)が2008年8月にイタリアで行ったベートーヴェンチクルスのライヴ録音が没後7年を経てソフト化された。速いテンポを基調にグイグイいくかと思えば、要所で入るブレーキや木管などの強調にドッキリする「マゼール節」全開の内容。とりわけ大胆な凹凸とラストの追い込みが決まった第7番、変幻自在のバランス操作が冴える第9番は圧巻。当時結成から数年だったオーケストラの鳴りっぷりも上々。野外コンサートにおける収録だが細部まで明瞭に聴き取れるし、響きがドーンと拡がった時のスケール感もとらえている。何かひとつ面白いものを聴きたい向きにおすすめ。
intoxicate (C)中川直
タワーレコード(vol.151(2021年4月20日発行号)掲載)