スコティッシュ・アルタナティヴ・バンド、トラヴィスの2003年オリジナル・リリースのスタジオ・アルバム4作目が180g重量盤LPで初登場。
「ビートルズの『Revolver』のように、あなたを本当の旅に連れて行ってくれる」と、エルトン・ジョンが絶賛した作品。コールドプレイが、トラヴィスの『The Man Who』時代のソングライティングに倣ってキャリアをスタートさせた一方で、フロントマンのフラン・ヒーリーは密かに鬱病と闘っていた当時、背景にイラク戦争があったことから、コールドプレイは曲作りにおいて外に目を向けるようになったが、トラヴィスは家庭内虐待をテーマにした「Re-Offender」や、アメリカのイラク侵攻をモチーフにした「The Beautiful Occupation」など、社会的な意識を持ったシングル曲を発表した。「Love Will Come Through」が昔のTravisに似ているとすれば、それは「12 Memories」の多くを特徴づける暗さのフィルターを通したものであり、アルバム全体はエレクトロニカの色合いを帯び、バンドは以前よりもハードなエッジでロックしていた。全英アルバムチャートで3位を記録。今回、初のレコード化、ロンドンのメトロポリス・スタジオで制作され、黒のヘビーウェイト・レコードにプレスされている。
発売・販売元 提供資料(2021/06/17)
As much heat as the group received for The Invisible Band not matching the charm of The Man Who, Travis is still a good pop band. To imagine a world without them and their lovely and amusing songs would be a sad thing. In fact, their fourth album, 12 Memories, might never have been if drummer Neil Primrose hadn't survived a tragic dive while vacationing in France in summer 2002. Primrose sustained a spinal injury in a pool accident; thankfully the odds of a recovery were good, and Primrose went through surgery without any complications. 12 Memories is a dark reflection of that time, not to mention a heavy soundscape looking at violence as a whole that stems from a post-September 11th way of life. 12 Memories is their most mature, most explicit, and most somber album, and fans looking for Travis to resort back to the blazing riffs of "All I Wanna Do Is Rock" obviously didn't come of age with the band as they should have. The world's a fragile place, and Healy wants to talk about it. He's on his soapbox and instead of pointing a finger in disgust, he and Travis craft beautiful melodies that do just as much damage. From slagging off a media-obsessed America and its political regime on the jaunty, new wave-tinged "The Beautiful Occupation" to the soft piano-pounce of "How Many Hearts," 12 Memories flows without any preconceptions of what Travis released previously. They really don't care. What they care about is love and spreading it through song. Healy's look back at his mum's spousal abuse on "Re-Offender" finds Travis maintaining a sweet, basic rock sound and hitting you hard in the face. If you're able to appreciate the pleasure and point they bring as a whole, 12 Memories will be a fine listen. If you're hoping they took the Coldplay route, you're in the wrong place. ~ MacKenzie Wilson
Rovi
何ひとつ足すことも引くこともできない完全無欠のハーモニー。計算し尽くされていながら、その労の重みを感じさせずに自然に浸透し、心に降り積もる音楽。トラヴィスの2年ぶりとなる4作目は、彼らがもはやスコティッシュあるいはUKロック云々といった論点では語り尽くせぬバンドに成長したことを物語っている。とにかくメロディーがあまりに美しい。特に今回はマイナー・コード主体でメランコリーの深い霧が全編を包み、前作『The Invisible Band』に収められた“Sing”のように長閑に合唱できる〈いい歌〉は見当たらない。なぜなら先行シングル“Re-Offender”をはじめ、フラン・ヒーリーはもっぱら人間関係の〈よじれ〉をなぞるようにしてペンを走らせているのだ。それでも絶妙なバンド・アンサンブルに鍵盤や弦楽器を絡めた繊細なサウンドは、暗い印象を与えない。大仰なメロドラマにもならない。それが彼らの持ち味なのだろう。また昨今のバンドの言動が予告していたとおり、現在の世界情勢の〈ねじれ〉も大きな影を落としており、内だけでなく外へも向けた視線が印象的だ。戦災児チャリティー・アルバム『Hope』に提供した名曲“The Beautiful Occupation”にしても、安易なメッセージ・ソングではなく、そんな世界と自分の関係を美化せず鋭く描写しており、これらを機にフランの人物像も多少なりに変わるはず。世界的な成功に関しては後発のコールドプレイに水をあけられたが、本作はトラヴィスをめぐる状況をさまざまな意味で覆す作品になるような気がする。
bounce (C)新谷 洋子
タワーレコード(2003年11月号掲載 (P70))
移動しながら聴くと、さらにしみじみと曲の細部が伝わってくる――といった音楽の種類が自分の中にあって、それは例えば、このトラヴィスやエリオット・スミスだったりする。窓から見える景色は、なにも風光明媚な山河じゃなくていい。むしろ、ゴミゴミした街並みを縫う電車にでも乗りながら耳を傾けたい音楽。通勤や通学の人。子供を連れて散歩する家族や買い物帰りのお母さん。腰の曲がった老人たち。なんの変哲もない風景に、トラヴィスの音楽はとても肯定的な詩情を浮かべてくれる。そういった意味では、彼らの音楽は本質的にはフォーク・ミュージックなのだろう。生活に寄り添う歌。アーティストとしてのエゴよりも、曲そのものに没頭する職人の険しい眉間が思い浮かぶ。だからこそ、彼らは前作を『The Invisible Band』と名付けたのだろう。つまり、〈姿が見えないバンド〉というわけだ。しかし、これだけ才能豊かなバンドを世間が放っておくわけもない。そのパラドックスの中で彼らはもがき、そしてある種の覚悟を決めた。それが、本作『12 Memories』ということになるのかもしれない。パーソナルな人間関係を扱うことに長けていたフラン・ヒーリーだが、ここではその眼差しを社会全体に向ける。数曲で共同プロデュースにクレジットされるチャド・ブレイクの歪んだ音像とも相まって、彼らは果敢に暗部の中に美しさを見い出す。それにしても、なんて志の高いグループなのだろう。
bounce (C)福田 教雄
タワーレコード(2003年11月号掲載 (P70))
」も最高の名曲。