1992年、Warpがテクノ・ミュージックの新しいあり方を提示したコンピレーション『Artificial Intelligence』への参加で注目を集め、翌1993年にファースト・アルバム『Incunabula』で鮮烈な印象をシーンに与え、さらに翌1994年の『Amber』で大胆な実験に乗りこんだオウテカは、以来IDM/エレクトロニカを代表するアーティストであり、孤高の存在であり続けている。IDM/エレクトロニカがさらなる変容を見せた2010年代にあってなお、『Oversteps』(2010年)、CD2枚組『Exai』(2013年)、自分たちのサイトからリリースしたCD5枚組『elseq 1-5』(2016年)、そしてCD8枚組LP12枚組の超大作『NTS Sessions.』(2018年)と、その勢いは衰えるどころか増幅しているようですらある。
そんな創造性の火を燃やし続けるオウテカが、2020年代はじめてのアルバムをリリースする。8時間を超えながら「ひとつの作品」だと見なされていた『NTS Sessions.』とは対照的に、11曲のトラックに現在のオウテカのエッセンスを注ぎこんだ本作は『SIGN』と名付けられている。
ポップ・ミュージックがより手軽なものとなり生活のBGMへと後退していく時代に、彼らはあくまでもリスナーに能動的な聴取体験を促す。音の進化を止めないということにおいて、そして、音楽を消費することに徹底的に逆らうことにおいて、オウテカはけっして変わらない。『SIGN』はその最新の成果であり、音楽に対して人間が能動的であり続けることの信頼である。
国内盤CDには、ボーナストラック「n Cur」が追加収録され、解説書が封入される。また初回生産限定のTシャツ付きセットも発売決定。アルバムのアートワークおよびTシャツのデザインは、盟友デザイナーズ・リパブリックが手掛けている。
発売・販売元 提供資料(2020/09/03)
その黎明期からIDM/エレクトロニカを体現する存在であり続けながら、2010年代には『Oversteps』や『Exai』などでリリースを活発化させ、勢いを衰えるどころか増幅させているオウテカが、早くも20年代最初のアルバムを完成。ここのところ5枚組の『elseq 1-5』や8時間を超える『NTS Sessions.』などヴォリューム満点の作品が続いてはいたが、1枚組の至極シンプルな構成でも彼ららしさは変わらず。不変にして普遍。
bounce (C)藤堂てるいえ
タワーレコード(vol.443(2020年10月25日発行号)掲載)
480分の大作『NTS Sessions』から2年半、ついにオウテカの新作がここに届けられた。今回はポップだと聞き及んでいたものの、際限なく長大化していた近作と比べて聞きやすいアルバムサイズに収まっている。それゆえ濃密で、彼らのコア、真の髄のみが純化・精練され結晶化した印象だ。全大文字の表題は何かの頭文字だが「サイン」と呼んでくれればいいよ、と2人は悪戯っぽく言う。記号の恣意性に遊びや豊かさを見出しているのだ。音も記号に似て、それが人間の聴覚を通じてどう解釈されうるかは様々。その無限の可能性を楽しみながら探究する彼らは、電子音の迷宮を築き上げてきた。その入り口にも最適な一作。
intoxicate (C)天野龍太郎
タワーレコード(vol.148(2020年10月10日発行号)掲載)