過去の偉大な傑作たちのどれとも似つかない意欲作にして最高傑作『The Ship』(2016年)
もともとは3Dレコーディング技術を使った実験から創案された本作は、イーノのクリエイティヴなキャリアにおける異なるサイクルの始まりを伝える近年の重要作として高く評価されている。本作はイーノが盟友デヴィッド・ボウイに捧げたアルバムとしても知られている。イーノが初期の音楽的探究のインスピレーション源として挙げているザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「I'm Set Free」のカバーは必聴。
発売・販売元 提供資料(2020/08/04)
3年ぶりのソロ作は、アンビエント路線ともロック路線とも異なる独特な雰囲気を持った仕上がりで、大きく2つのパートから成り立っている。第1章の"The Ship"は、静かに反復を繰り返すドローンの波間を、囁きめいた数々の声の断片と、イーノの沈鬱な詠唱が小舟のように揺曳する大曲。第2章の"Fickle Sun"は3部構成で、前曲の流れを継承しつつも次第にノイジーでドラマティックなウネリを増す1部から、俳優のピーター・セラフィノウィッツによる乾いた朗読がクールな2部へと進み、3部の驚くほど柔和なヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァーによって、美しい余韻を残しながら幕を下ろす。タイタニック号や第一次世界大戦からインスパイアされたという本作は、人間の愚かさと世界の無常を軸に、過去から現在、そして未来へと連続する幾多の物語のコラージュを封じ込めた、〈音楽による観念的小説〉とでも言うべき一枚であり、イーノのキャリアにおいても比類のない存在感を放つ名品となった。
bounce (C)北爪啓之
タワーレコード(vol.390(2016年4月25日発行号)掲載)