世界のインディペンデンド・レーベル界の静かなるゴッドファーザーの一人、マルク・オランデル率いるアクサク・マブール40年ぶりとなる第三作。 (C)RS
JMD(2020/03/28)
世界のインディペンデンド・レーベル界の静かなるゴッドファーザーの一人、マルク・オランデル率いるアクサク・マブール、40年ぶりとなる第三作、全22曲収録の二枚組。
英米および日本の媒体による名盤選、ディスクガイドの類に登場することはほとんどない、意図的に秘蔵されてた感すらある彼らのファースト、セカンド・アルバムは探求者であれば、いずれ遭遇することになる古典といえるでしょう。
名作 "Onze Danses Pour Combattre La Migraine"(1977年)、2ndアルバム "Un Peu De L'Ame Des Bandits"(1980年)リリース後、マークとヴァンサンはThe Honeymoon Killersに合流、ベルギー、ブリュッセルを拠点にインディペンデント・レーベル、Crammed Discs(クラムド・ディスク)を設立し、過去40年に渡り、いつの時代も世界各地のプログレッシヴかつ新鮮な音楽を世界に向け放ち続けてきました。
アクサク・マブール名義の活動としては1986年に山本耀司のファッション・ショーの音楽を手がけたのが最後だったようです。(残念ながらこの音源はリリース・プランにあがりながらも未発表のままです。)
2015年、突如「かつて"未来のアルバム"だったEX-FUTUR ALBUM」という80年から83年にかけ制作されながらも、未完のままだった幻のアルバムを30年以上の時を超えて発表(このアルバムはVeronique Vincent & Aksak Maboul with The Honeymoon Killers名義)。このリリースは当時を知らない近しい若者たちの反応に後押しされてのことだったようです。リリース後のヨーロッパでの公演は彼らの前史を知らない若い聴衆に包まれているとのこと。
近年、新鮮な音楽を求める人々の関心、世界的潮流はメインストリームを別にすれば、明らかにかつての音楽産業の中心地からはなれつつあるという見方もできます。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2020/03/27)
レア・グルーヴ~ヒップ・ホップのサンプリングソースとして再発見されたプラシーボ、コス、テレックス、前衛ロック連帯運動(Rock In Opposition=RIO)を通じて出会った、フレッド・フリス、クリス・カトラー、ミシェル・ベルクマン(ユニヴェル・ゼロ)、エトロン・フー・ルルーブラン、レ・テュー・ドゥ・ラ・リューヌ・ドゥ・ミエル/ハネムーン・キラーズ、ゼッテンネール(ZNR)、エクトール・ザズー、ジョン・ルーリー、ピーター・シェラー&アート・リンゼイ、ラムンチョ・マタ、エルミーヌ、ファミリー・フォダー、タキシードムーン、デヴィッド・カニンガム、清水靖晃、セイゲン・オノ、SONOKO、ザップ・ママ、サインコ・ナムチェラク、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、コチャニ・オルケスタル、タルティット、ヤスミン・ハムダン、アクアサージュ、ル・トン・ミテ、シンク・オブ・ワン、コノノ・NO.1、スタッフ・ベンダ・ビリリ、、、と彼らを取り巻く音楽家の輪は世界規模に拡がり、個々の音楽性は実にユニークです。
サブ・レーベル、SSR Records、Ziriguiboomの活動を含めるとMPBブラジル音楽~スバ、ベベウ・ジルベルト、セルソ・フォンセカ、シベーリ、エレクトロニック/ダンス・ミュージック~カレン・フィンリー、カール・クレイグ、4Hero、DJ Spinna、Juryman、シャンテル、アシッド・アラブ、プりンス・トーマス、オプティモ、ジャイルス・ピーターソン、ヌーヴェル・ヴァーグ、モッキー、、、、と人脈はさらに拡がっていき、未踏の領域はないかのようです。
エチオピアのムハムッド・アハメッドのリイシューが1986年(仏Buda MusiqueのEthiopiquesシリーズで再度紹介されるのは1999年のこと。)Roots Of Rumba Rock,Vol.1(Zaire Classics,1953-1954)がリリースされたのは1991年のことでした。米Luaka Bop、NONESUCHもクラムドの後を追ったことになり、英DOMINOをはなれたフアナ・モリーナがヨーロッパのあらたなベースに選んだのはクラムドでした。
アクサク・マブールの音楽にはこれら広大な音楽世界へと誘う伏線があり、クラムドのリリース作品は内包していた様々なヴィジョンに共鳴、反射させ、具現化、進化/展開させた軌跡と見立てるのは早計でしょうか。
音楽について語る時、さして深く考えないまま流用している語彙の数々、カテゴリー、ラベリングの多くが的を射ず、すり抜けていく感が彼らの音楽にはあります。
先行者として声高に何かを語ることもありませんが現在の音楽と過去50~70年以上前の録音物が並列で聴かれる今、アクサク・マブール、クラムドのリリース作品の数々がその後の音楽の青写真となっていることをあれやこれやの音盤に確認できるでしょう。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2020/03/27)
既成概念を覆す前衛的な自身の作品だけでなく、クラムド・ディスクの主宰を通じて後続アーティストたちの道標ともなっていたマルク・オランデル。本作はオランデル率いるアクサク・マブールとして3作目にあたり、40年振りとなる新作だ。テクノロジーが進化したことで、世界中に点在する刺激的な音楽と出会える機会も格段に増えているが、そんな環境下でもアクサク・マブールの多様な意匠(チェンバーロック、ジャズ、ブラジル音楽、ポップス、etc……)と、懐かしくもフレッシュという時代を超越した折衷性は、怪しさや可愛いらしさ、そして洒落っ気もたっぷりと含み何とも不思議で、強く惹きつけられる。
intoxicate (C)青木正之
タワーレコード(vol.145(2020年4月20日発行号)掲載)