ルシアン・バンの故郷であり、バルトークを魅了した音楽が生まれた
ルーマニアのトランシルヴァニア
そのトランシルヴァニアの民族音楽、バルトークの音楽
双方からのインスピレーションを元に新たに生み出された音楽集
ルシアン・バン- マット・マネリ- ジョン・サーマン
三者の才能が、バルトークの偉業に新たなる視点もあたえる一作
ルシアン・バン、マット・マネリ、そしてジョン・サーマンが、バルトークがルーマニアのトランシルヴァニアで収集した民族音楽を元に作曲した作品にインスパイアされ、新たな想像力で描き上げた注目の一作。
1969年生まれのルシアン・バンは、バルトークが魅了されて8年の時をかけ音楽を採集/録音したそのトランシルヴァニアで生まれたピアニスト。ジャズ・ミュージシャンとしてのキャリアをもとめ、90年代の終わりにNYに移住した一方、自らが育った町で生みだされた音楽にインスパイアされ続け、アルバムを制作。2010年には、ルーマニアが生んだ20世紀の傑出した音楽家/ヴァイオリニスト、ジョルジュ・エネスコの作品を演奏した『Enesco Re-Imagined』を発表。2016年にはレギュラー・バンドであるエレヴェーションで、同郷出身のフォーク・シンガー、Gavril Tarmureをフィーチャー、トランシルヴァニアをテーマにした3つのオリジナル楽曲を収録している。
本作は、ルシアン・バンが99年にNYで出会って以来感銘を受け続け、共演を重ねるマット・マネリと共に草案を練り、二人の音楽に、そして、このテーマ(プロジェクト)に最良の人選を考え、巨匠ジョン・サーマンを招き、実現した。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2020/04/07)
演奏楽曲は、バンがマネリと共に、バルトークがのこしたフィールド・レコーディングから直接セレクト。ルシアン・バンは、キャロルや、哀悼歌、ラヴ・ソングを含めた曲をアレンジして、150頁ものスコアとしていますが、バルトークが新たに創り上げた楽曲からのインスピレーションにとどまらず、バルトークの音楽の原点となった"採集した音楽"に戻ったプロジェクトとしたことで、数々のルシアン・バンの作品の中でも、より深くルーツとの結びつきも感じさせる展開。同時に、バンとマネリは、それらを演奏していくなかで、ヴァイオリン、フルート、バグパイプ等で演奏されてきた曲が、多様なスタイル、器楽編成にアダプトすることを確認。自分たちトリオでの演奏に際して、解釈に自由を与え、即興的なスペースも残した。
結果、3人の音楽は、バルトークの音楽の創造性をも新たに際立たせたともいえる演奏。バンのピアノがつくるモチーフの繰り返しに、東欧特有のマイナー調の旋律がからみ、静けさの中から、サーマンの即興等も交え、音楽を拡張していくオープニングから秀逸。プリパード・ピアノ、パーカッシヴな打鍵と、ヴィオラとソプラノ・サックスが屈曲した集団即興的な演奏をみせながらも、哀愁を帯びるメロディが浮かびあがる"ヴァイオリン・ソング"、一転、陰鬱にも至高の美しさを感じさせるバンのピアノにマネリのヴィオラとサーマンの悩ましいバスクラが重なり合う哀愁の"リターン"・・どの楽曲も、多面的なモチーフを融合させながら、トランシルヴァニアで生まれた音楽の魅力と、自由な即興がまじわる9編。ルシアン・バンとマット・マネリは、デュオ・ツアーの末にトランシルヴァニアでコンサートを行い、その作品が『TransylvanianConcert』となってリリース。ECMからのリリースとなって注目をさらに上げていますが、ジョン・サーマンを招いての想像力あふれるプロジェクト。バルトークが今に生きていたら、こんな音楽を生み出していたのでは、という想像さえも掻き立てられるような作品です。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2020/04/07)
ルーマニア出身のピアニスト、ルシアン・バンが盟友のマット・マネリ、そして英国を代表するサックス奏者、ジョン・サーマンを迎え祖国ルーマニアが生んだ偉大な作曲家で民俗音楽研究家でもあるバルトークが採集した"ルーマニアの民俗音楽"を演奏。面子もテーマもECM的であり、実際ルシアンとマットのデュオでECMからトランシルバニアでの実況盤のリリース歴はあるものの本作はサニーサイドから。サニーサイドでは2016年作でも彼の地のトラッドを取り上げており、それは静寂よりもラフさを求めてのことなのかもしれない。紐解かれた土地の記憶を三者が再び織りなす様が魂を直に揺さぶる。
intoxicate (C)片切真吾
タワーレコード(vol.146(2020年6月20日発行号)掲載)