スイス生まれのグレゴア・マレ、フランス生まれのロメイン・コリン
ヨーロッパに生まれ、アメリカで活躍する2人とフリゼールとの出会い
ブルース、カントリー、ブルーグラス、ゴスペル・・・
アメリカのルーツ音楽を3人の世界観で描き上げた美しい9曲
広大で郷愁感をそそる音楽はすべてシングルカットできそうな秀作!
現代随一のハーモニカ奏者グレゴア・マレとフランスが生んだ注目のピアニスト、ロメイン・コリンが、巨匠ビル・フリゼールを招き、描き上げるアメリカの情景。
パット・メセニー・グループのメンバーとしても活躍するグレゴア・マレは、スイスで生まれ育った一方、ハーレムに生まれた母親のもと、自ら、ヨーロッパとアフロ・アメリカンの文化を橋渡しすることを意識してきたとのこと。一方のロメイン・コリンは、フランスに育ち、バークレーへの留学を機に米国に移住。ニューヨークで出会った二人はジャズや、楽曲、歌、そして純粋なメロディへの愛情を共有。共になって、アメリカの魂を語る音楽の深みを探るプロジェクトに着手し、ビル・フリゼールを招き、音楽を構築していきました。
中心の3人に加えて、クラレンス・ペンがクレジットされていますが、ドラマーとして一定のリズムを刻む方法ではなく、パーカッションとして数曲、三人のサウンドに色彩感を加えるような参加。基本的に、スロウ~ミディアムのテンポで語り紡がれる音楽は、アメリカの原風景を感じさせる壮大なサウンド・スケープ。そして、なんともいいがたい、郷愁感が、琴線を揺らします。
オープニングは、ダイアー・ストレイツの5枚目の作品で、最大のヒット作でもある『ブラザーズ・イン・アームス』のタイトル・トラック。マレとコリンの秀逸なアレンジと切々とした語り口で奏でられる演奏で、一曲目にして、郷愁感はマックス(!)。そののちバンジョーとエレキ・ギターの多重録音に、切ないハーモニカが重なりあい、対話を織りなすサウンドが聴けるM2、祈りのような境地を感じさせるM3と、フリゼールのオリジナルで、作品が傑作であることを確信させますが、収録された9曲は、すべてシングル・カットできてしまうのではないか、という秀逸なトラックそろい。パット・メセニーにもインスピレーションを与えたといわれるジミー・ウェッブの名曲M6、ボン・イベールのM8など選曲も抜群。一方、オリジナル曲もその中で一つの世界観を形成。2015年に発表した楽曲をアップデートしたコリンのM4での広大な広がり、人肌のぬくもりを感じさせるマレのM5、そしてラストは、マレとコリンの共作で、エレクトロの効果も効かせながら、架空の物語にでもいざなうような展開・・・幕を閉じていきます。
ブルース、カントリー、ブルーグラス、ゴスペル・・・アメリカのルーツ音楽を背景に、才能あふれるミュージシャンが創り上げた思いのこもった一作です。
発売・販売元 提供資料(2020/03/13)
穏やかで暖かみのあるハーモニカの音色で幕を開ける《Brothers in Arms》。この、ダイアー・ストレイツの名曲と、続くフリゼールのオリジナル《Small Town》など、スロウ~ミディアム・テンポで紡がれる心地よい演奏。アメリカの広大な原風景を想起させるような郷愁感にあふれるサウンドは、その優しいメロディも相まって、一貫した穏やかさで胸にじーんと響く。ハーモニカとピアノがメインだが、絶妙な「間」で空間を表現するフリゼールのギターがさすがの貫禄を見せつける。アメリカのルーツ・ミュージックを繊細で奥ゆかしいロマンチシズムで彩った傑作だ。
intoxicate (C)栗原隆行
タワーレコード(vol.146(2020年6月20日発行号)掲載)