フランスのミュージカル界に新たなスターが誕生した。その名はマリー・オペール。1997年に生まれた彼女は、子供の頃からヴォーカル、聖歌隊、音楽理論、ピアノ、クラリネットにダンスを習い、10歳で『THE ADVENTURES OF PINOCCHIO(ピノキオ)』、そして12歳でパリのシャトレ座での『SOUND OF MUSIC(サウンド・オブ・ミュージック)』の舞台に立っている。その後、フルブライト・プログラムの最年少小学生となった彼女は、ニューヨークのMarymount Manhattanカレッジで学び、ミュージカル・シアターの学位を取得した。
そんな彼女がミュージカル界で注目を集め始めたのは2014年。フランスを代表するミュージカル作品『シェルブールの雨傘』のパリのシャトレ座公演であった。ミシェル・ルグランが音楽監督を務め、フランス・オペラ界の頂点を極め、ボーダレスな活躍をしている女性ソプラノ、ナタリー・デセイも出演したこの舞台で、彼女はかつて映画版でカトリーヌ・ドヌーヴが演じた、ジュヌヴィエーヴ役を務めた。この舞台主演をきっかけに、彼女は『スウィーニー・トッド』、『マイ・フェア・レディ』、『LES MOUSQUETARIES AU COUVENT』、『WONDERLAND: A NEW ALICE』など次々とミュージカルやオペレッタ作品に出演、またパリで自身のキャバレー・ショウを行うなど、スターへの階段を上り始めた。
「小さな頃からミュージカル舞台に夢中だった、そのことに気づいたのは、自分が舞台に立ち始めるようになってから」マリーはそう語る。「舞台に歌、踊りで物語を伝える"マジカルなパワー"を持っているジャンルなの。そこにどうしようもなく惹かれているわ」
その彼女のデビュー・アルバム『ENCHANTEE/アンシャンテ』。ブロードウェイ作品からフランス生まれのミュージカルの名曲を集めたこのアルバムを通して、彼女は自身の音楽的ルーツとミュージカルへの情熱を余すところなく表現している。アルバム全体を流れるテーマは"夢がかなう場所としてのミュージカル"であり、その中でマリーは『アナスタシア』からの「Journey To The Past」や『シェルブールの雨傘』の「I Will Wait For You (les Paraplules de Cherboug)」、『チャーリーとチョコレート工場』から「Pure Imagination」、そしてジュディ・ガーランドが歌った『オズの魔法使い』からの「Over The Rainbow」にジョージ・ガーシュウィンの「I Got Rhythm」まで、新旧のミュージカル作品を自分の声で辿っているのである。
アルバムのレコーディングは、Nicholas Skillbeck指揮のもとリール国立管弦楽団をバックに行われ、『シンデレラ』からの「Impossible/It's Possible」ではナタリー・デセイが、そして『メリー・ポピンズ』からの「Anything Can Happen」ではメリッサ・エリコと、クラシック界、そしてミュージカル界の大先輩がゲストとして登場している。彼女たちについてマリーは「私にとっての"フェアリー・ゴッドマザー"なの」と親しみを込めて呼んでいるそう。偉大なる先輩たちに導かれ、見守られ、マリーはミュージカル界のスター街道を駆け上がっていく。
発売・販売元 提供資料(2020/03/06)
近くて遠い感のあるオペラとミュージカル、たいていのレコード店ではその距離を象徴するかのように売場もかけ離れているがそんな距離を縮めてくれるかもしれないのがマリー・オペール。映像作品にもなった2014年のルグランの『シェルブールの雨傘』では17歳で主演を務め、ソプラノ歌手のナタリー・デセイとの共演も話題を呼んだ。ミュージカルの名曲を収録したソロデビュー作となる本作ではクラシック界のデセイとミュージカル界の大先輩メリッサ・エリコもゲスト参加している。2020年でまだ23歳となるミュージカル界の新星の端正ながらリリカルな歌唱に魅了されること間違いなしのアルバム。
intoxicate (C)西川智之
タワーレコード(vol.147(2020年8月20日発行号)掲載)