混迷を極めるブラジルから登場した「現代のトロピカリア」。フーベル、アナ・フランゴ・エレトリコなど続々と新たな才能を輩出するブラジルの音楽都市リオ・デ・ジャネイロから現れた注目アーティスト、ヒカルド・ヒシャイヂのデビュー作!
あのカルメン・ミランダの妹でありディズニーでも活躍した歌手・女優のアウロラ・ミランダの孫にあたるというヒカルド・ヒシャイヂ。母の影響でクラシック・ピアノを、兄の影響でパンクのドラムをはじめると、ティーンエイジャーのころにはキング・クリムゾンやフランク・ザッパ、そしてミナスの街角クラブ・ムーヴメントに目覚めリオのアンダーグラウンド・シーンでサイケやジャズロックに傾倒。そこから自国の音楽にさらに深くのめりこみ、プロの音楽家を志すようになる。カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、オス・ムタンチスらが牽引したブラジル版ヒッピームーヴメントであるトロピカリアを筆頭に、アルトゥール・ヴェロカイやイヴァン・リンス、エルメ―ト・パスコアル、アジムス、マルコス・ヴァーリといったアーティストに強い影響を受けつつ、プロとしてはリオのトップ・スタジオであるチア・ドス・テクニコス(元RCAスタジオ)でミュージシャン/エンジニア/プロデューサーとして活躍し音楽キャリアを築き上げてきた。そんなヒカルドの待望となるデビュー作『TRAVESSEIRO FELIZ』は、彼が影響を受けてきたサイケ、ジャズロック、ポストパンクといった音楽と、ホームタウンであるリオの空気、そしてマルコス・スザーノやアナ・フランゴ・エレトリコといった新旧を代表する気鋭ミュージシャンとのコラボレーションが結実した作品である。
ヴェロカイがプロデュースしたジョルジ・ベンの作品やトロピカリア派の武骨シンガー・ソングライター、ジャルズ・マカレーの初期作を思わせるサイケ・ジャズロック"Maracas Enterprise/ Frio da manha"でスタートし、CEROやマック・デマルコといったアーティストとも比較される今注目の若手女性アーティストのアナ・フランゴ・エレトリコが参加した"VIP Xuxa"、エルメート・パスコアルを思わせる変幻自在な展開と多彩なエフェクトをかましたエレキギター、スピリチュアルなフルートにパヤパヤ・コーラスがからむ先行シングル"Largado nu"、靄のかかったようなサイケ・サンバ"So na darkzera"、もっとも実験だった70年代前半のミルトン・ナシメント作品のような"Ave Apoena"...。
ブラジル音楽の遺産をそのまま継承したようなスケールの大きさ、リオならではのレイドバックした雰囲気とサンバの国らしい躍動感はもちろん、近年のブラジルにおける政治・経済・生態学的混迷が反映されているという靄のような仄暗さと混沌は、昨今の世界的トレンドでもあるダウナーでナイーヴなサウンドとも期せずして一致していると言えるだろう。まるで70年代にリリースされていた知られざるサイケ・アルバムのような特別な雰囲気をもつ、現代のトロピカリア的アルバムである。
発売・販売元 提供資料(2020/04/10)
リオのトップ・スタジオ、チア・ドス・テクニコス(元RCAスタジオ)でミュージシャン/エンジニア/プロデューサーとして活躍し、自身のキャリアを築き上げてきたヒカルド・ヒシャイヂのデビュー作。ブラジル音楽の伝統への深い理解を思わせるスケールの大きさと、アルトゥーロ・ヴェロカイ、エルメート・パスコアル、ミルトン・ナシメントなど、偉大なミュージシャンたちからの影響を随所で感じるサウンド。70年代のサイケデリックな雰囲気も内包した、現代のトロピカリアという表現も相応しく思える一枚。ジャケもサウンドのイメージにマッチしていて素晴らしい。
intoxicate (C)栗原隆行
タワーレコード(vol.145(2020年4月20日発行号)掲載)