イザベル・ファウスト、シェーンベルクの協奏曲を録音!
1ミリの狂いもない音色が引き出す旋律美
カップリングは超豪華メンバーによる「浄夜」!!
イザベル・ファウストの最新盤は、シェーンベルク。20代中頃の作品「浄夜」の弦楽六重奏版と、それから40年弱という時を隔てて書かれたヴァイオリン協奏曲という組み合わせです。「浄夜」はブラームスやワーグナーの影響が色濃く見られる欄熟のロマンティシズムが魅力の作品ですが、ここではファウストが心から信頼を寄せる奏者たちが集った最強のメンバーでの演奏で、注目です。ファウストのまっすぐな音色が中心となったアンサンブルが却って作品の欄熟した空気を際だたせており、ドロドロの世界が展開されております。そしてヴァイオリン協奏曲は12音技法を探求していた時期の作品ですが、ソナタ形式で書かれており、楽章構成も第1楽章―急(アレグロ)、第2楽章―緩(アンダンテ)、第3楽章―ロンド・フィナーレという形をとっています。シェーンベルクが12音技法の内に込めた様々な旋律を、ファウストが1ミリの狂いもない技術をもって奏でており、厳格かつ厳密な12音の世界の中にもシェーベルクが織り込んだ美しい旋律がこの上なく魅力的に引き出されています。それをサポートするハーディング率いるオーケストラとのアンサンブルも、ぴたりとあった見事なもの。欄熟のロマン、そして厳格な「古典」の書法の間にたって、ファウストと、彼女が心から信頼を寄せる音楽家たちが、20世紀の音楽史の中でも屈指の傑作であるこれらの作品を、これ以上なく生き生きと表現しています。
「浄夜」の共演者には信じがたいメンバーが顔をそろえています。ヴァイオリンのアンネ・カタリーナ・シュライバーは、フライブルク・バロック・オーケストラでリーダーも務める奏者。アントワン・タメスティは言わずとしれた世界的奏者(トリオ・ツィンマーマンのメンバー)。ダヌーシャ・ヴァスキエヴィチはアバド指揮モーツァルト管、カルミニョーラのモーツァルト全集で協奏交響曲のヴィオラを務めていました。クリスティアン・ポルテラはトリオ・ツィンマーマンのメンバー。ジャン=ギアン・ケラスも来日も多い世界的奏者です。どの奏者も広い時代の作品を手がけており、そうしたメンバーがこの「浄夜」を演奏する、というのはまた格別なものがあります。
キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2020/01/15)
同じ協奏曲でアルバン・ベルクの素晴らしい名演を持つイザベル・ファウストがこのシェーンベルクで到達させた高次の表現は、12音技法という書法の向こう側を照らし出さんばかりに完成されている。緊密な響き、イディオムの深い把握、練度の高い技が作品を絶妙に解きほぐす。さらに驚かされるのは《浄夜》で、6人の最高の名手たちが、互いに差し出す響きの空間に表現の一切を開陳し交わらせ、最高度に昇華された音楽として創り上げている。抑制と開放のもとに駆使される多様なビブラートが美しいコントラストをもたらす。聴き手はいやがうえにも感覚を研ぎ、耳をすます。まさしく、極上の悦ばしき聴体験だ。
intoxicate (C)森山慶方
タワーレコード(vol.144(2020年2月20日発行号)掲載)