月に吠えるストリートの詩人、キング・クルール
孤高の天才を更なる高みへと押し上げる新作完成!
若干19歳で作り上げた『6 Feet Beneath the Moon』(2013年作)でデビューを飾ると、たちまち耳の早いリスナーから"神童"として注目を集め、続く19曲入りの大作『The Ooz』(2017年)に寄せられた高い評価でテン年代SSWの旗手の座を固めたキング・クルールことアーチー・イヴァン・マーシャルが約2年ぶりとなる3作目の最新作『Man Alive!』で新たなディケイドをスタートさせる。
ティーンエイジ・ライフを囲む挫折・不安・ロマン・怒り・孤独をザラついた都会的なリリシズムに昇華した歌詞。フィフティーズのロックンロール、サーフ・ロック、ダブ、パンク、ヒップホップ、アーバン・ビート、ソウル、ジャズと幅広い影響を自己流にブレンドするネット世代のフュージョン感覚と、フラストレーションの咆哮からフラジャイルな独白まで自在な振れ幅を誇る、マッチ棒のような体躯からは想像もつかないバリトン・ヴォイス。そのオーガニックで感性豊かな音楽性に、イアン・デューリー、ポーグス、リバティーンズに至るビートなパンク詩人を生んだ母国イギリスはもちろん、ビヨンセやアール・スウェットシャツらアメリカ勢からもラヴコールが送られてきた。
共同プロデュースおよびミキシングには前作に引き続きディリップ・ハリス(マウント・キンビー、サンズ・オブ・ケメット他)が参加、イグナシオ・サルヴァドーレス(Sax他)ら慣れ親しんだ顔ぶれの並ぶ『Man Alive!』は音楽的には『The Ooz』の延長線上にあると言える。しかしフィルターを通さず何もかも詰め込んだ前作に較べてコンパクトにまとまった本作は、夢想と現実、ヴァーチャルとリアルがシュールに交錯する抽象度の高い映像的なサウンドスケープの内側に聴き手を深く引き込んでいく。
25歳になったキング・クルールの、ブルーにこんがらがった心理をじかに感じることができる1枚だ。
日本盤CDはボーナストラックが4曲追加収録され、解説書・歌詞対訳を封入。
発売・販売元 提供資料(2020/01/15)
十代で鮮烈なデビューを飾った10年代シンガー・ソングライターの旗手も25歳。この3作目では引き続き過去作の延長線上にある音楽性を披露しつつ、何もかも詰め込んだ大作だった前作と比較してかなりコンパクトにまとめられた印象だ。抽象度の高いサウンドスケープの内側に聴き手を深く引きずり込んでいくようなヴォーカル・スタイルと闇深さを感じさせる世界観は2020年代のムードにも確かに響いていくのだろう。
bounce (C)藤堂てるいえ
タワーレコード(vol.436(2020年2月25日発行号)掲載)