NYを拠点に活躍するピアニスト、ランディ・イングラム。通算4作目、Sunnysideでの第3弾は、新たに父親となったことをうけて、昨今の社会に広がる人種差別的なものを超えて、息子に希望を与えたいという思いを形にした一作。
マクダエル・コロニーでのコンポーザーズ・レジデンツにて、2016年の大統領選挙のニュースをみたイングラムは、他の芸術家との交流を通して、"Means ofResponse"(反応/対応していく意味)について気付き始めたとのこと。それと同じくした時期、妻が妊娠したといううれしい知らせを得て、こののちの世界が、自分たち家族の未来に与えていく影響を考えたとのこと。その後、ニューヨークのWKCR FMのショウのホストになる機会を得て、ジャズという音楽が、"プロテスト音楽として豊富な意味をもつ"という視点について探るチャンスも得たイングラム。本作の制作につながっていきました。
もともと、"ビル・エヴァンスがヒーロー"といい、モニカ・ゼタールンドの生涯を描いた映画、『Monica Z(邦題:ストックホルムでワルツを)』で、エヴァンス役を演じたイングラム。プロテスト・ミュージックというと、フォーク・ソングや政治的なものを取り扱った楽曲を一般的に連想させるものでもありますが、イングラムの演奏スタイルに大きな変化はなく、抒情的で詩的な演奏を繰り広げます。しかし、本作は繊細な表現の中に確かな意思を込めた11曲といえます。
メンバーは、前デュオ作で相方をつとめたドリュー・グレスと、ファースト・アルバムから演奏を支えてきたヨッケン・リュッカートというレギュラー的メンバー。オープニングは、まさに、このアルバムのタイトル曲であり、自らの意思を伝えるスローガン的な曲"The Means Of Response"。一聴では、美しいハーモニーを基本に、メロディも美しいナンバー。しかしながら、しなやかな力がみなぎるリズム・セクションと組しながら展開していくソロ演奏は、モーダルなスケールも多用しての芯を感じさせるもの。また、ラストの楽曲は、ジョン・レノン~オノ・ヨウコの反戦楽曲、If you want, War is Overからタイトルを得たナンバー。"War is over,if you want it~戦争は終わる,もし君が望むなら"という歌詞をもつ楽曲を背景にイングラムは意味を込めています。
昨年2018年には来日も果たし、日本の文化にも興味をいだくイングラム。以前の作品でも芭蕉の放浪からインスパイアされてタイトルを『wondering』と名付けたことを語っていますが、今回も"Shokunin"(職人)という楽曲を収録しているほか、黒沢明からの影響も語っています。
本作品を制作する過程は、"内省"ポジティヴな行動"というものにランディ・イングラムを導いていくものだったとのこと。基本的な表現形式は変更させることなくメッセージを託した一作になっています。
発売・販売元 提供資料(2019/08/02)