ECMから2枚のCDをリリースしたクエルクス(ジューン・テイバー、イアン・バラミーとのヴォーカル、サックス、ピアノによるトリオ)のピアニストで、そのトラッド・ヴォーカリスト、ジューン・テイバーのアレンジャー、ミュージック・ダイレクターを長年務めるヒュー・ウォーレンのトリオ作品。イギリスのウェールズ州スワンシーの生まれで、ケニー・ホィーラーや、ジュリアン&スティーヴ・アーギュロスといった、イギリス拠点で活躍する名だたるアーティストとも共演。また、ECMの代表ギタリスト、ラルフ・タウナーや、イタリアを代表するクラリネット奏者ガブリエラ・ミラバッシらとも共演する他、ジョン・テイラーのドラマーとしても知られるマーティン・フランスを迎えて、その名も『エルメート』と題するトリオ作品もリリースしています。本作は、そんなウォーレンのECM的な世界と、ブラジル音楽へのリスペクトがあふれる良作ピアノ・トリオ作品。録音は、アルテスオーノのスタジオで、ステファノ・アメリオ。粒立ちのいいフレージングと透明感の高い美しいハーモニーが織りなす詩的なオープニングや、ジョン・テイラー~パレ・ダニエルソン~ピーター・アースキンのトリオを思わせる2曲目など、ECMの世界につながる世界観があります。しかし、コンポジションも、ソロの展開も、北欧的なものではなく明るさがあるのが、特徴。ウォーレン本人とベーシストのオリジナルを除く5曲のカバー・ナンバーはエルメートや、ジスモンチ、シコ・ブアルキとブラジルを代表するアーティストの楽曲。このセレクションが、ピアニスト本人によるものか、CAMのプロデューサー、エルマンノ・バッソの提案によるかは明らかではありませんが、ウォーレンのピアノには、詩的な中にも自然な光のようなものを感じさせるところがあり、それらの楽曲と好相性。楽曲が本来的にもつ美しさも十二分に引き出しています。特に、エルメートの特徴であるさまざまな変拍子を複雑に組み合わせたM4のような楽曲でもグルーヴ感抜群にメロディアスなフレージングを終始展開。また意外なイントロを導入部にしたジスモンチの名曲Loloの構想/アレンジや、シコ・ブアルキの"ショーロ・バンジード"のみずみずしくサウダージがあふれる演奏にも、オリジナルな世界があります。ヨーロッパ的な美しさと、ブラジリアン・サウンドがひとつの世界に結晶されたピアノ・トリオ作品。CAM JAZZのなかで長く語られそうな新しい名演です。
発売・販売元 提供資料(2019/02/04)