無垢で静謐で、そして残酷な真冬の雪の白さ。ピアノを弾く侍・日食なつこのアルバムは彼女が創作活動をする上でもっともこだわりを持っているという緻密に練り込まれた歌詞の世界観を、よりストレートに表現することに専心して作り上げられている。ここ最近の定番となっている日食バンド編成による楽曲に加え、フィドル奏者、タップダンサー、日本やUKのトラックメイカー達と作り上げた一見ばらばらにも見える楽曲たちは、真冬の雪景色の中に続く一本道のようにコンセプチュアルである。岩手県花巻市という素朴な優しさと過酷さを併せ持つ風土に生まれ育った彼女だからこそ生み出せる深淵な詞世界は、優しさと同時に畏怖の念をも感じるイマジナリーな冬景色を作り上げている。 (C)RS
JMD(2018/11/17)
〈ここを登り切ったら山頂だ、一息つける〉という気持ちを持っていても、頂上に着いたらもうその次の山の方を見ている。安定とか幸福とかを手にしても、自分を律し、戒め続けるような気持ちを忘れない。日食なつこは自分にどこまでも厳しい人だなと思う。しかし、だからこそ美しく、かっこよい。それに、その道中で生まれた〈苦しい〉〈辞めたい〉といったネガティヴな感情をバネに、自分自身にカウンター・パンチを次々と食らわせる様は、何より見ていて痛快だ。これまで挑んできた弾き語り形態、バンド形態の楽曲もあるにはあるが、トラックメイカーを迎えたり、オケやタップ、フィドルを迎えたりと、音楽面でも新機軸の今作。そんな楽曲に、例えば"white frost"の〈地元を離れ、この街でやっていくんだ〉という決意表明のごとき力強い言葉が乗っかれば、否が応でも胸にズシンと響く。そういえば故郷を大事にするスタイルって以前はロック・バンドでもソロ・アーティストでも多く見受けられたけれど、いまではずいぶん少なくなったかもしれないな(ヒップホップではいるけれど)。大切なものを忘れたくない人に聴いてもらいたい、2019年最初の傑作。 (C)酒井優考
タワーレコード(Mikiki(2019年1月8日)掲載)