バッハのポリフォニーを多彩に明瞭に描き出した演奏
知的であるだけでなく感情的である演奏
グールドも参考にしたテューレック全盛期のバッハ録音集!
ロザリン・テューレック(Rosalyn Tureck, 1914年12月14日 - 2003年7月17日)はアメリカのピアニストで、グレン・グールドが自らのバッハ演奏の参考にしたことでも知られるバッハのスペシャリストでした。
テューレックは4歳のとき、見よう見まねでピアノを弾き始め、その後アントン・ルビンシュタインの弟子のソフィア・ブリリアント=リーヴァン、およびレシェティツキの弟子のJan Chiapussoにピアノを学びました。このうちChiapussoは、テューレックのバッハへの偏愛に影響を与えた古楽愛好家でした。テューレクは9歳で公開演奏を行い、ジュリアード音楽院の入学前にはバッハの平均律全曲を楽譜なしで演奏できるまでになっていたそうです。ジュリアード音楽院ではオルガ・サマロフのクラスに入り、バッハからアメリカ現代音楽に至る幅広いレパートリーを身に着けました。彼女のオーケストラ・デビューは22歳のとき、カーネギーホールでオーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏会に出演し、ブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏しました。その後、ベートーヴェンの《皇帝》、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も演奏しましたが、デビューの1年後には、ニューヨークで6夜に及ぶバッハ・リサイタルを開催しています。
その後、彼女は10年に渡って北アメリカを演奏旅行し、コペンハーゲンでヨーロッパ・デビューを果たしました。彼女のロンドン・デビューは3夜のバッハ・リサイタルで、最終夜はゴルトベルク変奏曲に充てられました。彼女のペダルを絶妙にコントロールし、バッハのポリフォニーを多彩に明瞭に描き出した演奏、そして知的であるだけでなく感情的でもある演奏は「…今日、世界で最も洞察力のあるバッハ解釈者の一人」との賛辞を浴びました。(1/2) (C)板倉重雄
タワーレコード(2018/07/05)
このCD-BOXには彼女が1950年代にモノラル録音したバッハ作品がCD10枚に収録されています。彼女はこれらの作品を複数回録音しましたが、最も彼女らしい、ゆったりとした、深く瞑想的な演奏、それでいて細部までポリフォニーが明瞭は演奏は、この50年代のものと思います。
例えば、ゴルトベルク変奏曲。彼女はこの作品を実に7回も録音しています。(カッコ内はオリジナル盤の企画品番)
(1)90分20秒 1947年、モノラル、セッション(Allegro 3033)
(2)96分24秒 1957年6月、モノラル、セッション(EMI ALP1548-9)
(3)82分59秒 1978年3月、ステレオ、セッション(COLUMBIA M2 35900)
(4)88分47秒 1980年12月、ステレオ、セッション(Fonovox Scalen)
(5)74分46秒 1979-84年、ステレオ、セッション(VAI VAIA1029)
(6)92分38秒 1995年6月、デジタル、サンクトペテルベルク・ライヴ(VAI VAIA1142)
(7)91分10秒 1998年3月、デジタル、セッション(DG 4595992)
このBOXに収録されたのは(2)で、タイミングを見るだけでも、この演奏の長さ、大きさを理解していただけると思います。(2)は録音から実に42年後の1999年に、「20世紀の偉大なるピアニストたち:ロザリン・テュ-レック 2」で初めて復活するまで、オリジナルLPはたいへんな稀覯盤として知られていました。Disc1~6に収録された「平均律クラヴィーア曲集全曲」は、テューレック・ブームが頂点に達した2000年に、米デッカでの初出以来、約半世紀ぶりにDGより初CD化されたもので、当時非常に話題を呼んだ録音です。ここにも上述したテューレックのバッハ演奏の美点が溢れています。他の収録作品も、それぞれモノラル時代の名盤として知られるもので、この廉価BOXで全部そろってしまいます。ぜひ、テューレック全盛期の演奏をお楽しみください。(2/2) (C)板倉重雄
タワーレコード(2018/07/05)