ロック史上最高傑作と称えられる作品の一つ、ポール・サイモンのグラミー賞受賞アルバム『グレイスランド』(1986年発売)に、2018年ならではのリメイクが施された。グルーヴ・アルマダ、リッチー・アーメッド、ポール・オークンフォールド、MK&KCライツ、ヨリス・ヴォーン、ジョイス・ムニーズ、リッチ・ピンダー&ジョコ、ガイ・ボラット、シーベリー・コーポレーション、フォーテックらがそれぞれ独自の解釈を加え、ロックの名盤としては初めて全編通したリミックス・アルバムを作りあげた。世界中で1600万枚のセールスを記録した『グレイスランド』はプロダクションにおいても伝説的作品となった。ポール・サイモンは多彩なサウンドとワールド・ミュージックの要素をサンプリングで取り入れることで、ポップ、ロック、アフリカのズールー人のイシカタミアやムバカンガの踊りを見事に融合させた作品を作ったのだ。
「ポール・サイモンの楽曲のリミックスが出来て光栄だと言うだけじゃない」と「ボーイ・イン・ザ・バブル」の轟音リミックスを手がけたリッチー・アーメッドは語る。「自分がこれまで手掛けた中で一番気に入っているトラックだ」「『名盤をリミックスしてくれ』と頼まれたらどう返事するかって?普通なら断るよ!」とグルーヴ・アルマダのアンディーは笑う。「僕たちが20年間守り続けて来た掟だ。『グレイスランド』の曲のリミックスの依頼を受けるまでは。このアルバムは…僕たちに新しい音の世界を知るきっかけを作ってくれた作品だ。リミックスする曲を自分たちで選んでもいいと言われたから掟を破ることにした。「コール・ミー・アル」の中にホーンのリフがあるんだけど、1998年にロスのFais Do-Do'sBallroomで試して以来ずっとこれを自分たちのDJセットのネタで使っている。ダンスフロアが見事に一つになって盛り上がるんだ。このリミックスはそうやって自然と出来上がったものだ。しかも、僕らのこの鉄板ネタは今や(著作権保護期間が切れて)共有財産になっている」ディープハウス、アフロハウス、ドラムンベース、テックハウスを始めとした様々なダンス・シーンを代表する幅広いアーティストによる12のリミックスで構成されるこのプロジェクトを監督するのはプロデューサー兼プロジェクト・キュレーターのThe Duke Of New Yorkとしても知られるマイケル・ゲイマンである。
『グレイスランド』が世界の音楽にもたらした影響を讃えるこの作品は非常に多彩なミュージシャンが参加して注目された本編のリリースから32年になる。特に当時アパルトヘイトで国が分断していたことを理由に欧米諸国がボイコット運動をしている最中の南アフリカ現地のパフォーマー達の参加は、話題となった。世界の様々な土地に存在する「ワールド・ミュージック」というものに多くのリスナーが触れるきっかけとなったこの異文化交流は後に、様々な楽器やフィールド・レコーディングをサンプリングし、大胆且つメインストリームにはない楽曲を生み出すと言う点で現代のエレクトロニック・ミュージックの礎ともなる。
発売・販売元 提供資料(2018/04/13)
アフリカ音楽をよりポピュラーなものとしたポール・サイモンの『Graceland』が30年以上の時を経て生まれ変わりました。グルーヴ・アルマダやポール・オークンフォルド、ヨリス・ヴォーンら錚々たるリミキサー陣に目と耳を奪われるなか、とりわけジョイス・ムニーズ製のディープ・ハウスと、フォーテックによるドラムンベースが、原曲の土着的なムードを妖しく拡大させていて、個人的にはめちゃくちゃお気に入り。
bounce (C)山西絵美
タワーレコード(vol.417(2018年7月25日発行号)掲載)