1980年代のジャズの創造力、熱さを伝える演奏!!
録音は、1989年4月17日と18日、マイルス・デイビスや、ビル・エヴァンス、またマッコイ・タイナーといったアーティストも録音を行ったニューヨークのクリントン・スタジオ。 メンバーはランディ&マイケル・ブレッカー、ジョン・スコフィールド、ジョージ・ムラツ、アダム・ナスバウム。このバンドは純然たるレギュラー・バンドではなかったものの、リッチー・バイラークが、その時代のオリジナルを含め、自らの表現を形にしたくなった時に集結した特別なグループ。冒頭一曲目を聴けば、如何にメンバーが通じ合っていたか、疑う余地もないというものがあります。アダム・ナスバウムが叩きだす強力なリズム。屋台骨として当意即妙にラインをクリエイトするジョージ・ムラツ。コルトレーン直系と自らを位置付けてやまなかったマイケル・ブレッカー、ハイノートも絶好調に飛ばすランディ・ブレッカー。アウトするフレーズをポップに聴かせるジョン・スコフィールド。そして、モードなフレーズを切れ味鋭いリズムで聴かせる主人公リッチー・バイラーク。この音、正に80年代!!冒頭一曲のみで、この時代の主流派ジャズのある種のスピリチュアリティがあふれだします。そうした演奏はたとえば、名スタンダードとして名高い"You don't Know What Love Is"でもしかり。バラードとしてスローで演奏されることも多いこの曲をアップ・テンポで、疾走感あふれるアレンジで演奏していく所に、このバンドのアイデンティティがあふれてやみません。
しかし、そうしたパワーが漲る演奏と共に、耳を惹きつけてやまないのが、バラードの演奏。この日の録音は、曲によって構成メンバーが変わりますが、たとえば、トリオで演奏するバーンスタインの"Some Other Time"(CD2-M4) は、エヴァンスを正統的に継承する存在とも言われたバイラークのリリシズムがあふれる演奏。また、マイケル・ブレッカーとバイラーク、ムラツで演奏されるバイラークの名曲"Sunday Song"の慈しみに満ちた演奏は、感涙ものの美しさ。この曲はライヴとスタジオ演奏と2ヴァージョン双方がありますが、マイケル・ブレッカーの繊細なバラード・プレイが聴けるトラックとして、ファン必聴の名演といえそう。ランディ・ブレッカーとのデュオで奏でられる"My Funny Valentine"はチェット・ベイカーに捧げたトラック。またドラムレスの変則トリオで演奏される"Inborn"にも心を浄化するカタルシスさえ感じさせるものがあります。
スタジオ録音の一部はCD化されていたこともありますが、すでに廃盤になって、久しく、今回は、完全未発表のライヴ・ヴァージョンも収録して、作品化。リッチー・バイラーク自身がライナーノーツを執筆し、マイケル・ブレッカー、そして、亡くなったジョン・アバークロンビーに捧げるリリースというのも泣けます。
発売・販売元 提供資料(2018/02/06)
1989年、2016年、2018年といくつもの日付が重なって出来上がった不思議なアルバム。ブレッカー・ブラザーズにジョン・スコフィールド、ジョージ・ムラーツにアダム・ナスバウム、そしてリッチー・バイラークのセクステットによるライブとスタジオの二枚組みである。どちらもマンハッタン最期の巨大スタジオと言われたクリントンでの録音である。バイラークは、デイヴ・リーブマンとかつてクエストというカルテットを主催していた、ボボ・ステンソンと並び称される美しいタッチで一時代を築いた孤高のアーティストである。バイラークとのデュオでフィーチャーされるマイケルのらしくない淡々とした節に涙。
intoxicate (C)高見一樹
タワーレコード(vol.134(2018年6月20日発行号)掲載)