「心を無にして音楽に向き合うのは久しぶりのことだった。聴き込むうちに、状況によって感じ方が変化することに気づく。染むように入ってくる時、孤独を覚える時。まるで、少しずつ距離を縮めてゆく友人のようである。Calma ― 森厳なる眼は、聴き手の私たちを、ただただ、見つめている。」ー bar buenos aires 河野洋志
2012年2月にリリースされた『オリジャニア』から約6年、待ちに待ったカルロス・アギーレの新作はトリオ名義。アギーレがピアニストとして表現しうる全てを込めた、ジスモンチやECMにつながる繊細で思索的な音世界と、カルロスらしい優しく穏やか、時に叙情的な旋律が印象的な作品。全7曲で収録時間72分に及ぶ、カルロス・アギーレ(p)とフェルナンド・シルヴァ(bs)、そしてルチアーノ・クヴィエージョ(dr)による、音の宇宙。カルロスの音楽的盟友として数々のプロジェクトを支えるシルヴァのベースと、ルス・デ・アグアの新作にも参加するドラマー、クヴィエージョのドラムは、どちらもアギーレの奏でるメロディーの魅力を最大限に活かすべく、少ない音数でどこまでも繊細な響きを追求している。2013年のトリオ結成から多くのセッションを経て完成した、このトリオでしか生まれ得なかったアルバム。
(1)「De tu lado del mar」はポルトガルのピアニスト、マリオ・ラジーニャに捧げされた曲。冒頭の単音弾きは穏やかな波打ち際の情景にも、大西洋の向こうに住む友人へのメッセージのようにも聴こえてくる。(3)「Hiroshi」は、初来日以降アギーレが「もう1つの家族」と呼ぶ日本の友人たちに捧げられた曲で、初出は2011年にリリースされたコンピレーション『バー・ブエノスアイレス~カルロス・アギーレに捧ぐ』。(4)「Kalimba」は、2016年の共演も話題になったエギベルト・ジスモンチのECM~Calmoレーベルでの諸作を思わせる。しかし中盤でのメロディアスな展開はやはりアギーレならではのもので、このアルバムのハイライトの1つと言える。(7)は唯一ゲスト・ミュージシャンを招いている。シンセサイザーにモノ・フォンタナ、ヴォーカルとしてルス・デ・アグアのクラウディオ・ボルサーニと、マルセロ・ペテッタがクレジットされており、カルロス・アギーレ・グルーポの新音源と言われたら信じてしまいそうな秀逸な楽曲。
発売・販売元 提供資料(2018/12/17)
アルゼンチンのネオ・フォルクローレを代表するピアニスト/作曲家として、もはや生ける伝説となったカルロス・アギーレ。約6年振り待望の新作はトリオ名義ということで、小規模なフォーマットでシンプルに削ぎ落とされた音だからこそ、その表現力の豊かさや想像性の奥深さが伝わってくる。「ジャケット・デザインはアート」とカルロス本人は語るが、それぞれの楽曲をイメージしたブックレットの美しい写真を眺めながら聴くことで、よりイマジネーションが広がるかのよう。『Calma(=平穏)』と名付けられた本作。心を鎮めてくれる穏やかな旋律にじっくりと耳を傾けてみてほしい。
intoxicate (C)栗原隆行
タワーレコード(vol.131(2018年2月20日発行号)掲載)