1930年生まれ、80代も後半に折り返すという大御所、アーマッド・ジャマルの新作。2011年、Jazz Villageの立ち上げの一枚となる作品『Blue Moon -The New York Sessions』をリリースして以来、ライヴ作をまじえながら本作で5作目。そのたびごとに、巨匠の健在ぶりと貫禄を感じさせてくれますが、虚飾なく、この瑞々しいエネルギッシュな演奏には、驚かされます。50」代にシカゴのシーンで頭角を現し、ブルージーで豪快な演奏を見せる一方、音数をそぎ落とした繊細な演奏で一スタイルを築いたアーマッド・ジャマルは、70年代から80年代はエレピも弾き、ビルボードチャートを飾るなど商業的な成功も修めてきたピアニスト。しかし、近年は再びアコースティックに回帰。ベース、ドラムとのトリオにパーカッションを加えた定型のフォーマットでの"間"を活かした演奏と、静謐な中に息づく強靭なグルーヴ、それでいてエレガンスと神々しさを感じさせるオリジナリティあふれるタッチが混然一体となった演奏は正に唯一無二のものを感じさせてくれます。それは、積み重ねてきた表現の年輪が確実にありつつ、決して惰性に陥らない新鮮さがみなぎる表現。かつて、ジャマルがマイルス・デイビスをも魅了した、というエピソードはあまりにも有名ですが、この尽きないジャマルのクリエイティヴな音楽は、驚異的とさえ言えそうです。本作は、南仏の魅惑的な都市、マルセイユに捧げた一作。まばゆいばかりの光が射し、古代ギリシャ、ローマの文化を基礎に、様々な文化が入り混じり、多くのアーティストや映画監督などをも魅了し続けるマルセイユですが、その多様性を表すように、その名もズバリ"マルセイユ"と題した曲では、インスト・ヴァージョン/コンゴ系フランス人アブダル・マリックのラップをフィーチャーしたヴァージョン/歌姫ミナ・アゴシをフィーチャーしたヴァージョンと3ヴァージョンを収録。ジャマルならではの神々しくもミステリアス、かつ、キャッチーなモチーフをベースにした楽曲が全く異なる表情でつづられる演奏は正に必聴です。しかし、同時にスタンダードもジャマルならでは。19世紀に生まれたゴスペル/スピリチュアル・ソングをパーカッシヴなブロック・コードとブルージーな旋律で編み上げていく"Sometimes I Feel Like A Motherless Child"、また数々の名演ひしめく"枯葉"に新たな命を吹き込む展開も。厳選された音を選び、オリジナリティを発揮するこのセンスには脱帽です。本作では、ジェイムズ・キャマックの復帰にも注目。80年代から、90年代諸作を共にしてきたまぎれもない朋友がレジナルド・ヴィールに代わって参加。
発売・販売元 提供資料(2017/06/29)
1930年ピッツバーグ生まれ、17歳でデビュー。アポロ劇場で活躍し、やがて50年代マイルスに、彼だけの「間」を褒められ、バンドメンバーのガーランドはジャマルの様に弾けと言われたという。80年代ニースで見事な演奏を見せて仏での人気を獲得。コンセプチュアルなフランスへの愛に満ちた本作は、アブダル・マリックの詩の朗読をハーリン・ライリー、マノロ・バドレーナの二人の打楽器の不思議なサウンドが包み込むタイトル曲がクオリティの高さを示す。お馴染みの(2)もこのテンポでの演奏は記憶にないユニークな乗り。《枯葉》での独自なテーマ解釈、一切のクリシェと決別したオリジナリティに脱帽だ。80歳後半にしてこの意欲。
intoxicate (C)瀧口秀之
タワーレコード(vol.129(2017年8月10日発行号)掲載)