ローリンの声が聴ける! 胸が躍りまくった。フージーズの2作目『The Score』の大成功から、勢いに乗ったままリリースした98年のソロ作『The Miseducation Of Lauryn Hill』で世界中の賞賛を浴び、メアリーJ・ブライジやアレサ・フランクリンのプロデュースも手掛け、これからという矢先に突如として雲隠れ……それから約3年の沈黙を経て久々に聴ける彼女の声だ。その類い稀なスキルは、曇ることなくいっそう研ぎすまされて戻ってきた。誰も聴いたことのない新曲をアコースティック・ギターだけをバックに披露するというのは、いくらローリンでも無謀すぎるのでは?とも思ったが、沈黙の間に本当の自分を見つけ、何時でもありのままの自分でいようとする彼女にとって、そんな心配は無用だった。ビートを効かせたみずからのアコギをバックに、アグレシッヴなラップを挟みつつ力強く歌ったかと思うと、感極まって涙混じりになったり、はたまた声が奇麗に出なくて裏返ったりしても、それをもみずから楽しんでしまう。そのさまの清々しさといったらない。もはや、常人には想像もつかない遠い世界の人、聖者のような存在にも思えるが、同時に、とても身近な人にも感じられるのが素晴らしいところだ。“I Gotta Find Peace Of Mind”や“Mystery Of Iniquity”で心を打たれない人はいないだろう。小さい体とアコギ一本で、こんなにも力を与えてくれる音楽を聴かせてくれて、ありがとう──この一言につきる作品だ。
bounce (C)金子穂積
タワーレコード(2002年6月号掲載 (P96))
自宅が井の頭公園の側にあるので、帰り道では必ずと言っていいほど弾き語りの連中に出くわす。疲れた身に全く染み込んでこないあのオナニーぶりは何とかならんのか……が、もちろんローリン・ヒルは人前で手淫に耽ることはない。そりゃそうだろうが。さて、『The Miseducation Of Lauryn Hill』以来となる新曲集は、MTVの人気プログラム〈Unplugged〉として。収録は2001年の夏。CD2枚組。大作? いや長い長い小品だ。こっちの心にダイレクトに刺さってくる。何が? もちろんプラグは刺さっていない。夫ローハン・マーリーのパーカッション、そして観衆のざわめき&どよめき&拍手、ぬくもりを感じさせるMC、そしてもちろん彼女の凛としたストローク、時にへヴィーなリリック、声……ラップと歌。そういうものだ。逆に言えばそういうものしか鳴らされない。さらに、ヤンキースのキャップのそのまた下、スカーフの下からもうドレッドは覗かない。ヴィジュアルからも彼女の変化は容易に窺える。それを明確に伝えるために披露されたのは、全て新曲。“Doo Wap”も“Everything Is Everything”も“To Zion”も、もちろん“Fu-Gee-La”も演らない。事前に知ってた曲は義父ボブのカヴァーぐらいだ。ただ、〈~ない〉と何度も書いたものの、何もないわけではもちろんない。〈聴けばすぐに誰にでもその魅力が伝わる〉ような以前の彼女を見つけることはできなくとも、〈聴いていればそのうち誰にでもその魅力が伝わる〉ような彼女はいる。つまり、大事なものはある。そして、彼女の唯一無二の佇まいは、纏う意匠は全く異なるが、例えばミシェル・ンデゲオチェロが捻り出す高密度のグルーヴを思わせるものになってきた。ローリンもまた、いま鳥のように自由なのだろう。参った。
bounce (C)轟ひろみ
タワーレコード(2002年6月号掲載 (P96))