50年以上のキャリアにおいてベーシスト/作曲家としてだけでなく、正義を持った生き方にも多くの人々の共感を得ているチャーリー・ヘイデン。1969年に彼が作ったLiberation Music Orchestraはインパルスに残したデビュー・アルバム『リべレーション・ミュージック・オーケストラ』で自らを含めデューイ・レッドマンやドン・チェリーといったフリー系のミュージシャンとともにメッセージ性のこもったアンサンブルを聴かせてくれる。アレンジャーは共にグループを結成したカーラ・ブレイ、カーラに関しヘイデンは生前「カーラは僕が聴こえてほしいと思うアレンジと全く同じ音楽を聴いてくれる。」としばしば語っていたそう。その後40年間において彼らがリリースしたのは1983年『The Ballad of the Fallen』(ECM)、1990年『Dream Keeper』(Blue Note),2005年『Not In Our Name』(Verve)、1999年に1989年のライヴ盤『The Montreal-Tapes:Liberation Music Orchestra』(Verve)をリリース。そして2014年にヘイデンが他界、その2年後の2016年に新作を遂にリリース。
本作の始まりは2007年、ヘイデンと奥様キャメロンが環境問題に関して深刻であると認識したことから。4年後の2011年にLiberation Music Orchestraはアントワープで行われたMiddelheim Jazz Festivalに出演、そのフェスティヴァルのディレクターはその年のテーマを環境問題としたのだ。そしてカーラ・ブレイの天才的なアレンジによってビル・エヴァンスとマイルス・デイヴィスの"Blue in Green"を演奏、そして1979年にヘイデンが書き、バンドOld and New Dreamsで初レコーディングした"Songs for Whales"を演奏したのだった。その後スタジオ録音しようとしていたのだが、ヘイデンの病状が悪化。マネージャーでもあるキャメロンは「この作品を完成させるというのが私たちの夢だったのでそれはしなければならなかったし、ベルギーで国営ラジオ局が録音していた2トラックをみんなに聴いてもらいたいと思った。」そして一貫したテーマに基づきキャメロンはカーラ・ブレイに"Utviklingssang"(1981年のカーラの作品『Social Studies』収録のノルウェーの政府が都市部の電力確保のために一連のダムを北の地方に多く作る計画を立てたときに、ラップランドの環境、野生動物、人々に影響を与えることを懸念し、表現したバラード)を新たに録音してほしいと依頼。カーラはさらに1960年代に作った彼女の楽曲でゲイリー・バートンの1968年の作品『A Genuine Tong Funeral』に収録の"Silent Spring"もリアレンジ。そしてアルバム・タイトル曲"Time/Life"はカーラがヘイデンの他界を知った後にキャメロンに贈られたレクイエム。
2015年1月12日にNYのタウンホールで行われたヘイデンのお葬式でLiberation Music Orchestraはヘイデンに向けて演奏した。月曜日にアヴァター・スタジオでリハーサルを行い、火曜日にお葬式で演奏、水曜日にレコーディング、巣多事青に入ったオーケストラはみんなチャーリーのスピリットを感じたという。ベースを担当したSteve Swallowは1950年代からの唯一無二の親友だ。キャメロン曰く「この音楽を聴くといつも涙が出てしまう。チャーリーはこの作品を出せて感激してくれていると分かるから。この録音がお葬式の後すぐに行われたからオーケストラのエネルギーがとても強いの。」本作品の最後にはヘイデンの生前のメッセージも収録されています。
発売・販売元 提供資料(2016/09/15)
チャーリー・ヘイデンが鬼籍に入り2年が過ぎ、その後色々と音源は出たもののまさかのLMOの新譜である。《ブルー・イン・グリーン》で始まる全5曲中最初と最後はチャーリー参加の2011年ライヴ音源。間3曲はゲイリー・バートンの《沈黙の春》などカーラ・ブレイ作曲のLMO名義での新録、ベースを弾くのはカーラのパートナーでもあるスティーヴ・スワロウ。主宰かつ精神的支柱を失ってなお、その響きはシリアスで生命力に溢れたLMOサウンドそのものだ。その精神は全く損なわれず、むしろ継承していくその強い意志を感じる。それはカーラからチャーリーへのこの上ない「葬送」なのだろう。
intoxicate (C)片切真吾
タワーレコード(vol.125(2016年12月10日発行号)掲載)