ノルウェイ、ギリシャ、ロサンゼルスと世界各地にあるプライベート・ホーム・スタジオでレコーディングされた実に4年ぶりとなる新アルバム『Medicine』はリーヴァイ自身が「自分の中にある別の人格でレコーディングをしてから、普段の僕に戻って、長い間一人でセッションを重ねたんだ」と振り返る。本作でも、プリンスに対する強い憧れと、マーク・ボランに対する愛情を素晴らしきポップ・センスとギター・リフへと変換し、ポール・マッカートニーや、初期ストゥージス、それにリンジー・ バッキンガムやピーター・ガブリエルまでをも並列に並べて、バブルガム・ ポップからヴードゥーなガレージ・パンク、そして誰もが心奪われるクラシカルなロックの魅力をたったひとりで作り上げてしまう、その才能が迸った作品に仕上がった。
先行シングル「STRAWBERRY SHAKE」(M-1)でタイトなビートで畳み掛けると、「」(M-2)や「」(M-4)ではキンクスやジャック・ホワイトも真っ青なキラー・リフを連発する。さらには彼のポップ・センスとロック・センスのコントラストが炸裂した「Coming Down」(M-5)、サイケなロック・ブギーが癖になるタイトル・トラックの「Medicine」(M-6)から、ノエル・ギャラガーも認めるソング・ライティング・センスが光る「Bye-Byes」(M-7)のような心地良いバラードまで、全てにおいてロック、そしてポップ・ミュージックの神髄を心得た快作!
発売・販売元 提供資料(2016/08/08)
プリンス系のひしゃげたドラムがペシャペシャと打ち付けられるなか、性急なギターがブリブリ駆け巡る先行シングル“Strawberry Shake”の変態ぶりに悶絶した人も多いだろう。相変わらずポップなんだけど、いわゆる〈ポップ・サウンド〉とはまるで違ったヴェクトルに進んでいるポップ・リーヴァイ。L A在住のUKロッカーが4年ぶりとなるニュー・アルバム『Medicine』を引っ提げて戻ってきた。その曲のPVでは、アンディ・ウォーホルも真っ青のアヴァンギャルドなポップアートを展開。こりゃ素直にカッコ良いぞと認めるしかない。しかし、なぜ4年も掛かったのか。本人いわく〈自分のなかにある別の人格でレコーディングしてから普段の自分に戻り、その後ずっとひとりでセッションを続けていたんだ〉とのこと。いまひとつチンプンカンプンな説明だが、アルバムの音を聴いてみれば、結構頷けるかもしれない。ノルウェー、ギリシャ、L Aのホーム・スタジオでレコーディングしたという本作は、分裂症的でありながらも、ピシっと一本筋が通っている。ブルース、ファンク、ガレージ・ロックに、サイケ、ブギー、ゴーゴー、エレポップとキーワードだけを書き連ねると実に多様に聞こえるものの、彼のエキセントリックなヴォーカルが牽引していく形で、どんなスタイルであろうと自分のカラーに染め上げてしまう。そのあたり、やはりプリンス殿下に通じるカリスマ性を感じてしまうのだが、同じようにひたすらギターをひとりでバリバリ弾きながら歌う姿からは、彼自身が敬愛するというマーク・ボランの面影や、もっと最近の人に例えるならばジャック・ホワイトの面影が浮かび上がってくる。具体的に書くと、痛快ブギーなメロディーセンスはT・レックス譲りだし、ささくれ立ったポップ感覚はホワイト・ストライプス譲りといった見方もできそうだ。前作『Never Never Love』のジャケ写では女物の着物を羽織っていた彼だが、普段からそういう服装をすることも多く、既成概念を捻じ曲げたいのだとか。そういう意味ではこの新作も同様の目的を果たしている。〈ポップソングなんて……〉と思っている人にこそ聴いてほしい。なぜなら、これは〈ポップ〉の既成概念をあっさり捻じ曲げてくれるに違いない一枚だからだ。
bounce (C)村上ひさし
タワーレコード(vol.349(2012年10月25日発行号)掲載)