ロック・ジャズを標榜し、2010年辺り、アルバム・リリースとライヴと、そのパフォーマンスがオーディエンスを驚かせたELEWこと、Eric Lewisの新作。立ってピアノに向かった写真をジャケにしたCDは、ポーズかと思えばそうではなく、ブルーノート東京を舞台にしても、真ん中にステージをセッティング。響板を外したピアノに椅子も置かず、立って向かってのパフォーマンスは見た目も斬新なら、演奏曲目も、ニルヴァーナやマイケル・ジャクソンから、ブレイキング・ベンジャミン、ザ・ナイフ、キル・ハンナといったマニアックなところまでカバー。話題をさらいました。一方、経歴をたどれば、エリック・ルイスは1999年セロニアス・モンク・インターナショナル・ピアノ・コンペティションの優勝者。ウィントン・マルサリス、エルヴィン・ジョーンズといったスターのバンドで活躍しながら、ジャズの世界に落胆し、ジャズ・ロックを標榜した人。そのルイスが、ジャズ回帰した作品をSunnysideからリリースする運びになりました。ドラムには、エルヴィン・ジョーンズの正統的後継ともいえるあのジェフ・ワッツ、ベースには、ウィントン・マルサリスのバンドを陰で支えるレジナルド・ヴィールといった面々。演奏曲目を見ても「オーネット」、「モンク」、「トーンズ・フォー・エルヴィン・ジョーンズ」そして「マイ・フェイヴァリット・シングス」といわゆるジャズを強く意識させる楽曲が並びます。演奏を聴いても、オープニングからスウィング感を感じさせるリズム、またジャズの故郷、ニューオリンズの香りを感じさせる演奏もチラホラと見えます。スウィング感と、奇妙な不協和音を取り入れた「モンク」は確かにセロニアス・モンクのそれであり、リスペクトも見えます。しかし、世間を、世界をあっと言わせた反骨精神が即消えるわけはありません。シェイクスピアのシーザーの一節をフィーチャーしたトラックあり、インストの演奏も、かつての暴れん坊ぶりも見え隠れ。ユニークさは消えません。さて、これからどちらの方向に向かうのか、その分岐点にたったアーティストの個性的な一枚です。
発売・販売元 提供資料(2016/07/19)
ジェフ・テイン・ワッツのドラムが素晴らしい。レコーディングの音色感やアイデアのバランスがジェフのドラムにはうまく着地した、ELEW四枚目のアルバム。《My Favorite Things》以外、全てELEWのオリジナル、Nu Jazzマナーがお腹いっぱい、という人に特にオススメである。オールドスクールだなあと思うものも多いが、ワーク・ソング風ブルースの、コーラスとトリオのコール・アンド・レスポンスのアイデアにはハッとさせられた。シェークスピアの戯曲に基づくアルバム・タイトルであるジャズトリオと語り手のために書かれたコンポジションや、《My Favorite Things》での繊細なジェフのアプローチ、これなくしてELEWはありえない。
intoxicate (C)高見一樹
タワーレコード(vol.125(2016年12月10日発行号)掲載)