キューバを代表する偉大なる作曲家/アレンジャーであるチコ・オファーリルが祖父、アフロ・キューバン・ジャズの伝統を継承する、ピアニスト/バンド・リーダーとして活躍するアルチューロ・オファーリルが父、という揺るぎない音楽一家で育ったアダム・オファーリルの注目の初リーダー作。
本作にも参加しているドラマーの兄、ザックからも大きな影響を受け、O' Farrill Brothersとして作品もリリース。しかし最近の話題としては特に、2015 年にリリースされたルドレッシュ・マハンサッパの作品『Bird Calls』で俄然注目を集めたといえましょう。また昨今ではヴィジェイ・アイヤーの企画ライヴでフィーチャーされたことなども鮮烈な話題といえます。そんなアダムが繰り出す音楽は、アコースティック・ジャズの伝統に根ざし、歴史に立脚しつつ、その可能性の拡張を目指すもの。背景には、ミンガスやエリック・ドルフィー, 60年代の新主流派的なものもありつつ、フリー的な展開と、その真逆を行く超微細に切り刻むビート、変拍子の間を自由に往来。演奏には、伝統的な楽器を以てのオーソドックスなカルテット編成での新たなる冒険/挑戦が見られます。一方では、レイドバックしたワルツでの古き良きジャズの世界を薫らせるオープニング、M7では、ミッキー・マウスの漫画にインスパイアされたという楽曲で、マーチ的なリズムと4ビートのスウィング感が20-40年代を彷彿とさせるトラッド感も楽しいご機嫌な展開。しかし一方では、80 年代のMベース、その後のポストMベースといったものも自在に取りこんでのゾクゾクするほどのスリリングな展開。M4や、M5辺りを聴けば、ある種の筋書きを元にしつつ、いとも自然に変拍子的なアプローチを見せ、歴史を横断し、音楽を拡張しているか、驚かされること必至です。表層的なスタイルの融合などでみせる新しさではなく、ジャズの歴史的経緯に深いリスペクトと理解を表しつつ、現代的なアンサンブルの形を提示。ヴィジェイ・アイヤーやルドレッシュ・マハンサッパからさらに10歳若いアダム・オファーリル、今後どのように歴史を更新してくれるか、楽しみでなりません。ビリー・ストレイホーンのナンバー「U. M. M.G.」を下敷きに、祖父の作品『The SecondAfro Cuban Jazz Suite』のメロディを引用するという展開を見せるラストにも、21歳にして早熟さも感じさせる粋があります。
発売・販売元 提供資料(2016/05/17)