ボブ・ゲルドフの娘であるピーチズ・ゲルドフの夫としても知られる、元ポスト・パンク・バンドS.C.U.M.のフロントマン、トーマス・コーエンが初のソロ・アルバムを完成させた。収録されているのは、2013年のバンドの解散以降、ここ3年間の実体験から書きあげられた楽曲。トーイやホラーズと引き合いにされるダーク・ウェイブ・サウンドが特徴だったS.C.U.M.とはまったく異なった音楽テイスト、タウンズ・ヴァン・ザント、ジュディ・シル、ヴァン・モリソンやジム・サリヴァンらを聴いてインスピレーションを得たという今作。収録されているのは、バンド解散後初めて書いた「Honeymoon」、次男の誕生を描いた「Bloom Forever」(歌詞はまさに誕生した日に病院で書き上げた)、そして最愛の妻との別れを歌った「Country Home」など全9曲。
2014年に25歳の若さでこの世を去った妻のピーチズ。あまりのショックに、遺体が発見された自宅にしばらく戻ることができなかったというトーマスは、気分転換もかねて制作作業場をアイスランドに移した。「Country Home」は確かにこの辛い経験について歌われているが、決してアルバム全体がそうというわけではない。あえてリスナーにそう思ってほしくなかったことから、トーマスはこの1曲のみにこの想いを全てを注ぐことにした。美しくて、儚くて挑戦的。奥深くに沈み、聴き手の心地よい場所を見つけて迷い込むことができる。『ブルーム・フォーエヴァー』はそんな作品だ。
発売・販売元 提供資料(2016/03/07)
元S.C.U.M.のフロントマンがソロ・アーティストとして再始動。バンド時代のダークウェイヴな雰囲気からは一変し、アコースティックな音を纏ってヴァン・モリソンのような哀愁味たっぷりの歌を披露している。妻ピーチーズ・ゲルドフの死を乗り越えるのではなく、その悲しみを抱えながら人生を歩んでいこうとする意志が透けて見え、涙なしに聴くことはできないだろう。こんなにも美しいラヴソングは久しぶりに聴いた。
bounce (C)長崎耕平
タワーレコード(vol.391(2016年5月25日発行号)掲載)