ACTの若手ラインアップに突然抜擢された才能に溢れるジャーマン・ピアニスト。フランク・ヴェステは1976年生まれ。年齢的にはもはや若手とは言えないかもしれませんが、母国ドイツでも知名度は発展途上とのことで、そのような状況に新展開を用意したのがACT、という舞台裏が実際のところのようです。家族全員が楽器を演奏する環境に育ち、自身も様々な楽器を手にして最終的にピアノをメインに。母国での勉学だけで満足せず、パリに起居して音楽を学んだ経験は、自然な過程でクロス・カルチャー的な音楽性を身につける素養となりました。このACTデビュー作では初めてベン・モンダー(g)+ジャスティン・ブラウン(ds)とのトリオを結成。この変則編成を可能にした要因は、ヴェステがピアノのみならずフェンダーローズ、オルガン、シンセ・ベースを多重録音した音作りにあります。欧州レーベルからリリースされた過去のリーダー作で、ピアノ・テクニックのレベルの高さは評価されていましたが、本作ではアコースティックとエレクトリック、70年代と現代という異なるジャンルをブレンドしたハイブリッドな手法が成果を生んでいます。ヴェステが参加メンバーとして共演歴があるイブラヒム・マーロフやユン・サン・ナが、返礼として協力。ジャズ、ロック、クラシックを融合したサウンドは、誰もが体験したことのない音世界と言えるでしょう。本人は様々な場所を訪れる旅が創作のヒントになった、ロード・ムービーのような作品と語っています。ACTが世界へ送り出す才人の音楽を、ぜひお楽しみください。
発売・販売元 提供資料(2016/11/21)
オルガン・トリオの発展系、と言えるキーボーディスト、フランク・ヴェステ・トリオの最新作。ベン・モンダー(g)、ジャスティン・ブラウン(ds)の三人に、ゲストにヴォーカリストのユン・サン・ナなど、いくつかの楽器が加わる。このエレクトロなトリオになぜ、ユン・サン・ナなのか、アリアのように盛り上がる曲の構成とこのジャズのアウトサイダー的シンガーのコラボは、このアルバムの白眉とも言えるが、特異点である。しかし、全体に不思議な曲を書く人だなと思う。ピアノ、フェンダー・ローズをセンターに組み上げられたアンサンブルの聞きなれたはずの響が、新しく響くのはオーケストレーションのアイデアによるのだろうか、面白い。
intoxicate (C)高見一樹
タワーレコード(vol.125(2016年12月10日発行号)掲載)