アニヴァーサリーを超えて、新たな次元へ~北欧のシンフォニストの真髄を明らかにするパーヴォ渾身のニールセン・チクルス。
ニールセン生誕150+1年記念リリース
デンマークの国民的作曲家カール・ニールセン(1865-1931)が生涯にわたって書きつづった6曲の交響曲は、それぞれが独自の風貌と極めて個性的な響きを備え、シベリウスの7曲と並び北欧が生んだ稀有なオーケストラ作品として20世紀音楽の中で重要な位置を占めています。パーヴォ・ヤルヴィにとっては、シベリウスと同様に北欧音楽の重要なレパートリー。パーヴォは、スウェーデンのマルメ交響楽団首席指揮者時代(1994-1997)にニールセンの作品に親しむようになり、それ以来各地で取り上げるようになりました。現在はイギリスのフィルハーモニア管とニールセンの交響曲をハイドンと組み合わせて演奏するチクルスを行なっており、そのニールセン解釈は世界的に高く評価されています。
2009年から2013年にかけて4年がかりで成し遂げられたこのニールセンの交響曲全曲録音は、ブルックナー(5曲がRCAよりリリース済み)やマーラーの交響曲全集(映像による全曲がCMajorよりリリース済み)と合わせ、パーヴォがフランクフルト放送響首席指揮者時代(2006-2014)に打ち立てたマイルストーンの一つ。
パーヴォの解釈は、鋭いリズム捌き、クールなリリシズムの表現、そしてシンフォニックな構成感を生かした男性的なダイナミズムが聴きもの。ニールセンの個性的なオーケストレーションのディテールを緻密に再現する手腕もパーヴォならでは。ニールセンのアニヴァーサリー・イヤーにはいくつかの交響曲の名演が生み出されましたが、パーヴォのこの新しい全集は、アニヴァーサリー・イヤーを超えて、その先を志向する名演の誕生といえるでしょう。通常ニールセンの交響曲は、北欧やイギリスのオーケストラが得意としているため、ドイツのオーケストラによる交響曲全集はおそらく世界初だと思われます。ここではフランクフルト放送響の持つドイツの放送オケらしい機能的かつパワフルな底力が聴きものです。第5番のみ、シンシナティ響との旧録音がありますが、そのほかの5曲はパーヴォにとって初録音となります。(1/2)
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2015/11/24)
ニールセンの音楽には強烈な力がある―――パーヴォ・ヤルヴィ
『ニールセンの交響曲は20世紀で最も独自の個性を持っています。時代をはるかに先取りした交響曲でした。当時の聴き手は理解できなかったかもしれません。伝統的な音楽とは異質なかけ離れた音楽だったからです。ニールセンが確立したのは 他にはない独自の音楽語法でした。ニールセンの音楽をちょっと耳にすれば、たちまちそれがニールセンだとわかるのです。他の誰とも違う音楽だからです。ニールセンの交響曲は6曲あります。交響曲というジャンルの中で 最も革命的で前衛的な作品ばかりです。ニールセンのすごさは 他人の意見など気にしないところ、自分はこうしたい これしかないという 強烈な意志があるところです。彼の交響曲は、いわゆるロマン派から出発しました。第1番と第2番「4つの気質」がそうです。これはシベリウスと似ていますね。第1番と第2番は、それ以後の交響曲と比べて、いくぶんメロディアスだし理解しやすい。第3番「おおらかなの交響曲」は、「エスパンシーヴァ」というタイトルや、ソプラノとバリトンがヴォカリーズを歌う第2楽章が異例です。第4番「不滅」は傑作といえるでしょう。オーケストレーションは独特です。舞台の両側に置かれた2組のティンパニが競い合うのです。第5番は第1楽章で小太鼓が独自の活躍をし、楽章最後の瞑想的なクラリネット・ソロが耳に残ります。第1次世界大戦で破壊されていく世界を描いたようなところがあります。第6番「素朴な交響曲」は、私の大好きな作品で、シンプル(素朴、簡単)という意味の「センプリーチェ」と名付けられていますが、実際は全く異なるのです。演奏は非常に難しい。だからあまり演奏されません。深刻な感じはしないので、「センプリーチェ」と名付けられたのでしょうが、当たり前のことには全く興味がないかのような独自の音楽です。最後は滑稽なファゴット・ソロで終わるのですが、まるで聴衆に「あっかんべー」と舌を出しているかのようです。まさにポスト・モダンの作品ですね。色彩感に溢れ、それまでの彼の5曲の交響曲で彼が成し遂げたことが全て凝縮されています。まさに天才の作品です。以前父(指揮者ネーメ・ヤルヴィ。ニールセン演奏の権威でもある)とニールセンについて話し合ったことがあります。その時父が言ったことを今でも覚えています。「ベートーヴェン以外の作曲家で、これ以外にはありえないという強い確信を持つ音楽を書いたのは、ニールセンだけだよ。」ニールセンの音楽には強烈な力があります。荒々しいほどの力、全てのものを破壊してしまうようなパワーです。こうしてもいいかもというような迷いは、決して彼の音楽には存在しないのです。ニールセンの音楽には、こうであるべきだという確信があります。こんな音楽を書く作曲家はほとんどいないのです。ベートーヴェンにはそれがあります。ブラームスにはないし、ブルックナーにもない。マーラーにもない。ニールセンにもその確信があるのです。――――パーヴォ・ヤルヴィ』(2/2)
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2015/11/24)